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細胞壁合成阻害薬

細胞壁合成阻害薬

細胞壁合成阻害薬は、細菌の細胞壁の主成分であるペプチドグリカン層の合成を阻害し、細菌の細胞壁の合成を阻害する。細菌は、細胞壁の合成が阻害されると、浸透圧に耐えられず溶菌する。


細胞壁合成阻害薬の作用機序

細胞壁の主成分であるペプチドグリカンは、ムレインモノマーが多数連結することで合成される。

ペプチドグリカンの合成
①:細胞質にてムレインモノマーが合成される
細胞質にてN−アセチルグルコサミン(NAG)とN−アセチルムラミン酸(NAM)がβ1,4グルコシド結合し、ムレインモノマーが合成される。
②:糖鎖の伸長
①で合成されたムレインモノマーが細胞表面まで運び出せれ、ペニシリン結合タンパク質のトランスグリコシラーゼ活性によって既存のペプチドグリカン鎖に単量体が結合し、糖鎖が伸長する。
③:ペプチド鎖の架橋
ペニシリン結合タンパク質のトランスペプチダーゼによりペプチド鎖が架橋形成する。
④:①〜③の過程を経てペプチドグリカン層が完成

 

細胞壁合成阻害薬には、β−ラクタム系抗菌薬、グリコペプチド系抗菌薬、ホスホマイシン系抗菌薬があり、それぞれの作用点は異なる。

細胞壁合成阻害薬の作用機序
・β−ラクタム系抗菌薬
β−ラクタム環は、ムレインモノマーのD−アラニル−D−アラニンに構造が類似していることから、ペニシリン結合タンパク質(PBP)に結合しペプチド鎖の架橋を阻害する。
・グリコペプチド系抗菌薬
ムレインモノマーのペプチド鎖末端に直接結合し、ムレインモノマーがペプチドグリカン層に組み込まれることを阻害する。
・ホスホマイシン系抗菌薬
N−アセチルムラミン酸の合成を阻害する。

β−ラクタム系抗菌薬

β−ラクタム系抗菌薬とは、基本骨格としてβ−ラクタム環を有する抗菌薬のことである。

β−ラクタム系抗菌薬は殺菌的に作用するものが多く、最も頻用されている。抗菌力は時間依存的であるため、time above MIC(最小発育濃度MICを超えている時間)を意識して用量・用法を調節する必要がある。

<β−ラクタム系抗菌薬の分類>
β−ラクタム系抗菌薬は、構造によりペニシリン系薬、セフェム系薬、カルバペネム系薬、モノバクタム系薬に分類される。

・ペニシリン系抗菌薬
β−ラクタム環に隣接する環が5員環

・セフェム系抗菌薬
β−ラクタム環に隣接する環が6員環

・カルバペネム系抗菌薬
β−ラクタム環に隣接する環が二重結合を有する5員環

・モノバクタム系抗菌薬
β−ラクタム環に隣接する環状構造がない


ペニシリン系抗菌薬

ペニシリン系抗菌薬は、天然ペニシリンと合成ペニシリンに分類される。合成ペニシリンはさらにペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン、広域ペニシリン、β−ラクタマーゼ阻害薬配合剤に分類される。

・天然ペニシリン
天然ペニシリンであるベンジルペニシリンは、主にグラム陽性菌に対して効果を示す(一部のグラム陰性菌にも効果あり)。多くの細菌で耐性化認められるが、感受性のある菌には第一選択薬として用いられる。

・広域ペニシリン
広域ペニシリンには、アミノペニシリン(アンピシリン、アモキシシリン)と抗緑膿菌ペニシリン(ピペラシリン)がある。
アミノペニシリンは、ベンジルペンシリンにアミノ基を組み込むことによりグラム陰性菌の外膜に侵入することができるようになったため、グラム陰性菌に対しても効果を示す。また、抗緑膿菌ペニシリンであるピペラシリンは、グラム陰性菌の外膜により侵入しやすくなっているため、緑膿菌に対しても効果を示す。

・β−ラクタマーゼ阻害薬配合剤
β−ラクタマーゼ阻害薬には、β−ラクタマーゼ(β−ラクタム環を加水分解する酵素)の活性を低下させるクラブラン酸、スルバクタム、タゾバクタムがある。
β−ラクタマーゼ阻害薬配合剤は、既存のβ−ラクタム系薬にβ−ラクタマーゼ阻害薬を組み合わせたものであり、β−ラクタマーゼを配合することにより、β−ラクタム系薬の抗菌作用をより発揮できるようにしている。

β−ラクタマーゼ阻害薬配合剤の使用目的
アモキシシリン・クラブラン酸配合剤、アンピシリン・スルバクタム配合剤は、単独で有効な細菌に加え、黄色ブドウ球菌、大腸菌やインフルエンザ菌などβ−ラクタマーゼ産生菌に対しても効果を期待できることから、起因菌にβ−ラクタマーゼ産生菌の関与が想定される場合に用いられる。また、タゾバクタム・ピペラシリン配合剤は、緑膿菌、セラチア属菌による医療関連感染に用いられている。

セフェム系抗菌薬

セフェム系抗菌薬は、基本骨格として7−アミノセファロスポラン酸を有しており、構造の違いからセファロスポリン系抗菌薬、セファマイシン系抗菌薬、オキサセフェム系抗菌薬に分類される。


セファロスポリン系

セファロスポリン系薬は、開発された順に第一〜第四世代に分類されている。

・第一世代セファロスポリン系薬
一般にグラム陽性菌と一部のグラム陰性菌に効果を示すとされている。
グラム陽性菌に対する抗菌活性が強く、主にメチシリン感受性黄色ブドウ球菌やA群レンサ球菌感染症に対して用いられる。髄液移行性が悪いことから髄膜炎には使用しない。

<医薬品例(一般名)>
セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファクロル

・第二世代セファロスポリン系薬
抗菌スペクトルが広がりグラム陰性菌に対しても効果を示すようになるが、第一世代に比べ、グラム陽性菌に対する効果が減弱する。
第一世代と同様に髄液移行性が悪いことから髄膜炎には使用しない。

<医薬品例(一般名)>
セフォチアム、セフロキシム アキセチル

・注射用第三世代セファロスポリン系薬
第二世代よりもさらに抗菌スペクトルが広がり多くのグラム陰性菌に対して効果を示すようになるが、グラム陽性菌に対する効果は第二世代よりも弱いとされている。
第三世代の中には、緑膿菌に対して作用を示すもの(セフタジジム)も存在する。
注射用第三世代は、髄液移行性が高いことから髄膜炎に使用される。

<医薬品例(一般名)>
セフォタキシムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム水和物、セフメトキシム塩酸塩、セフトリアキソンナトリウム水和物、セフタジジム水和物

・経口第三世代セファロスポリン系薬
皮膚軟部組織感染症、口腔外科での感染予防、軽度の気道感染症、急性中耳炎などに用いられるが、バイオアベイラビリティが低いものがあり、中途半端に効果を示すことにより耐性菌が出現することがあるので、使用するにあたり注意が必要である。
第三世代セファロスポリン系薬は、髄膜炎の治療に用いられる重要な抗菌薬であるため、耐性菌の発現を防止するために、経口第三世代セファロスポリン系薬を使用するにあたっては、他の抗菌薬で適切なものはないか検討した上で使用する必要がある。

<医薬品例(一般名)>
セフジニル、セフジトレンピボキシル、セフィキシム水和物、セフテラム ピボキシル、セフポドキシム プロキセチル、セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物

構造中にピボキシル基を有する薬剤
第三世代セファロスポリン系薬には、バイオアベイラビリティを高めるために、構造中にピボキシル基を導入しているものもあり、幼児、乳児、小児に対して使用する際には、副作用である低カルニチン血症を誘発する可能性があるため注意する必要がある。


第四世代セファロスポリン系薬
第四世代は、抗菌スペクトルが広くグラム陰性菌に対して効果を示すとともにグラム陽性菌に対しても強い抗菌作用(第一世代と同様の抗菌活性を示す)を示す。現在、院内感染の重症例や抗がん剤治療による発熱性好中球減少症などに用いられる。

<医薬品例(一般名)>
セフェピム塩酸塩水和物、セフピロム硫酸塩、セフォゾプラン塩酸塩


セファマイシン系

セファマイシン系薬は、7−アミノセファロスポランにメトキシ基(−OCH3)が結合したものであり、セファロスポリン系薬に比べ、β−ラクタマーゼに比べ安定である。
構造中に嫌酒薬の類似構造であるN−メチルチオテトラゾール基を有するため、飲酒によるジスルフィラム作用をきたすことがあるので服用中は飲酒を避ける必要がある。
<医薬品(一般名)>
セフメタゾールナトリウム


オキサセフェム系

オキサセフェム系は、7−アミノセファロスポランにメトキシ基(−OCH3)が結合しており、さらに環状構造のイオウ原子Sが酸素原子Oに変換されている。
抗菌活性はセファマイシンと同様である。
<医薬品(一般名)>
フロモキセフナトリウム、ラタモキセフナトリウム


カルバペネム系抗菌薬

カルバペネム系抗菌薬は、他のβ−ラクタム系抗菌薬と同様に、β−ラクタム環がペニシリン結合タンパク質と結合することにより、抗菌作用を発揮する。
幅広い抗菌活性(グラム陽性菌、グラム陰性菌、嫌気性菌に効果を示す)を示し、基質特異性拡張型β−ラクタマーゼ産生菌やセファロスポリナーゼ産生菌に対しても有効である。
カルバペネム系抗菌薬は、カルバペネム系薬でないと治療できない細菌感染症で用いるとされており、第一選択薬として用いられることは少ない。ペニシリン系薬やセフェム系薬で治療可能な場合は、優先してペニシリン系薬やセフェム系薬を用いることとする。
<医薬品(一般名)>
イミペネム水和物−シラスタチンナトリウム配合剤、パニペネム・ベタミプロン配合剤、メロペネム水和物、ビアペネム、ドリペネム水和物、テビペネム ピボキシル


モノバクタム系抗菌薬

モノバクタム系抗菌薬は、β−ラクタム環に隣接する環状構造を有していない。
グラム陽性菌に対して抗菌活性を示さず、グラム陰性菌に対して選択的に強い抗菌活性を示す。耐性菌が生じやすいため、第一選択薬としては用いられない。
<医薬品(一般名)>
アズトレオナム


グリコペプチド系抗菌薬

グリコペプチド系抗菌薬として、バンコマイシンやテイコプラニンが臨床の場で使用されている。グリコペプチド系抗菌薬は、β−ラクタム系抗菌薬と同じく細胞壁のペプチドグリカンの合成阻害であるが、その作用点はβ−ラクタム系薬と異なる。

<作用機序>
グリコペプチド系薬は、ムレインモノマーのペプチド鎖末端に直接結合(ペプチド鎖のD−アラニル−D−アラニン部分に水素結合)し、ムレインモノマーがペプチドグリカン層に組み込まれることを阻害する。

<特徴>
時間依存性抗菌薬であるが、PAE(post antibiotic effect)があり、治療効果はAUC/MICに依存するとされている。

PAEとは
細菌に最小発育阻止濃度以上で抗菌薬を接触させた後、最小発育阻止濃度以下の濃度になっても細菌の増殖が持続的に抑制される現象

 

点滴により使用する際、急速に静脈内に投与するとヒスタミン遊離によるレッドネック症候群が現れることがあるため注意が必要である(バンコマイシンは60分以上かけて点滴静注し、テイコプラニンは30分以上かけて点滴静注を行う)。

バンコマイシンは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して効果を示すことから、MRSAが原因と考えられる感染症の治療に用いられるほか、クロストリジウム・ディフィシルが原因となり発症する偽膜性大腸炎の治療にも用いられる。


ホスホマイシン系抗菌薬

ホスホマイシンは、細胞膜の能動輸送系により細菌内に取り込まれ、ホスホエノールピルビン酸トランスフェラーゼの活性を阻害し、N−アセチルムラミン酸の合成を阻害することにより、細菌の細胞壁の合成を抑制する。

<特徴>
ホスホマイシンは、構造が単純でありアレルギー反応を起こしにくいことから、β−ラクタム系薬にアレルギーを持つ患者に対する代替薬として用いられることがある。
単純性膀胱炎に対する有効性に加え、腸管出血性大腸菌感染症に対する効果も報告されている。

第104回薬剤師国家試験 問155

第104回薬剤師国家試験 問155

レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系に作用する薬物に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 アンジオテンシンⅡAT1受容体を遮断する薬物は、副腎皮質球状層からのアルドステロン分泌量を減少させる。
2 キニナーゼⅡを阻害する薬物は、血中のブラジキニン量を増加させる。
3 レニンを阻害する薬物は、血中のブラジキニン量を増加させる。
4 アドレナリンβ1受容体を遮断する薬物は、傍糸球体細胞からのレニンの分泌量を増加させる。
5 アンジオテンシン変換酵素を阻害する薬物は、血中のレニン量を減少させる。

 

 

 

 

 


解答
1、2


解説
1 正
アンギオテンシンⅡがアンギオテンシンⅡAT1受容体を刺激すると副腎皮質球状層からのアルドステロン分泌が促進される。よって、アンギオテンシンⅡAT1受容体遮断薬により、アンギオテンシンⅡAT1受容体が遮断されると副腎皮質球状層からのアルドステロン分泌量が低下する。
2 正
キニナーゼⅡは、アンギオテンシン変換酵素と同様にブラジキニン分解酵素である。よって、キニナーゼⅡを阻害する薬物は、血中のブラジキニン量を増加させる。
3 誤
レニンはアンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンⅠに変換する酵素であり、ブラジキニンの生成、分解に関与していないことから、レニンを阻害する薬物は、血中ブラジキニン量に影響を与えない。
4 誤
傍糸球体細胞に存在するアドレナリンβ1受容体が刺激されると、傍糸球体細胞からのレニンの分泌量が増加する。よって、アドレナリンβ1受容体を遮断する薬物は、傍糸球体細胞からのレニンの分泌量を低下させる。
5 誤
アンギオテンシン変換酵素を阻害する薬物を投与すると、アンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡへの変換が抑制され、レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系が抑制されることから、それを正常化するために代償機構としてレニン分泌が促進される。