抗てんかん薬

1 てんかん  てんかんとは、大脳における興奮シグナルと抑制シグナルのバランスがくずれ、大脳神経細胞に過剰な放電が発生し、てんかん発作が反復して現れる慢性脳疾患である。てんかん発作によって意識障害、痙れん、精神症状などが発生する。 1)てんかん発作の型 てんかん発作は脳の一部分(焦点)が過剰興奮して起こる発作(部分発作)と発作開始から大脳半球が両側同時性に過剰興奮して起こる発作(全般発作)に分類される。  (1)部分発作 ●単純部分発作 意識消失はなく、過剰興奮の場所に従って身体の一部に痙れん、感覚異常が認められる。 ●複雑部分発作 意識消失を伴う。症状として自動症(本人の自覚なしに、無意識に行う動作、行動)が認められることがあり、発作中の記憶が欠如することがある。また、一過性の錯乱、幻覚が現れることがある。  (2)全般発作 ●欠神発作(小発作)  小児〜思春期に多く、痙れんを伴わない短時間の意識障害が認められる。発作中の記憶が欠如することがある。 ●ミオクロニー発作 新生児〜思春期に多く、突然の瞬間的な筋硬直が認められる。光刺激に誘発されることがある。 ●脱力発作 幼児期に多く、突然の瞬間的な脱力が認められる。転倒による外傷をきたしやすい。 ●強直発作 突然、体軸性の強直が認められる。 ●間代発作 筋肉の収縮・弛緩を繰り返す。 ●強直間代発作(大発作) 突然の意識消失後、強直性痙れん(体軸性の強直)、間代性痙れん(筋肉の収縮・弛緩を繰り返す)昏睡、睡眠が認められる。発作数分後に正常に戻る。 2)てんかんに対する薬物療法 てんかん発作は、多くの場合、短時間で終了するため、直ちに薬物治療を開始する必要はなく、痙れんや意識障害による外傷を起こさないように注意し観察する。てんかん重積状態が認められた場合には、初期対応にミダゾラム、ジアゼパムを静注し、それ以降の対応には、フェノバルビタール、フェニトイン、レベチラセタムが用いられる。また、非発作時には、発作を予防するために抗てんかん薬が用いられる。 <抗てんかん薬の選択>  抗てんかん薬は、発作の型により選択する。 2 抗てんかん薬の作用機序 ●フェニトイン、カルバマゼピン、トピラマート、ゾニサミド、ラコサミドは電位依存性Na+チャネルを抑制し、Na+の細胞内流入を阻止することにより、抗てんかん作用を示す。 ●エトスクシミド、トリメタジオン、ゾニサミドは、T型Ca2+チャネルを抑制し、抗てんかん作用を示す。 ●バルプロ酸は、GABAトランスアミラーゼを阻害し、GABAの分解を抑制することによりシナプス間隙のGABAの濃度を上昇させ、抗てんかん作用を示す。 ●ベンゾジアゼピン系薬、バルビツール酸系薬は、GABAA受容体の機能を亢進し、神経興奮を抑制することにより抗てんかん作用を示す。 ●レベチラセタムは、シナプス小胞上の蛋白結合部位(SV2A)に作用することにより、グルタミン酸(Glu)の遊離を抑制することにより抗てんかん作用を示す。 ●ガバペンチンは、電位依存性Ca2+チャネルのα2δサブユニットに結合し、シナプス前膜におけるCa2+の流入を抑制して興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)の遊離を抑制することにより抗てんかん作用を示す。 ●ラモトリギンは、Na+チャネルを抑制し、神経膜を安定化させ、興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)の遊離を抑制することにより抗てんかん作用を示す。 3 抗てんかん薬→ Read More

神経症治療薬

1 神経症  神経症とは、器質的には異常はないが、精神的や身体的な症状を自覚することであり、その原因には、心理的因子や性格が関与している。神経症には、広場恐怖症、特定の恐怖症、全般性不安障害、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害などがある。神経症は心身症と異なる。神経症は、心因による精神障害により身体症状(動機、発汗)が生じるが、心身症では、身体疾患(消化性潰瘍など)の発病や増悪に心因が寄与する。  ●広場恐怖症  不安やパニックに襲われたとき、すぐに逃げられない状況や場所に不安を抱く状態のことである。多くの場合、発作時に助けを求められない状況を避ける。 広場恐怖症では、パニック障害(様々な身体症状を伴う急性不安発作)を伴う場合がある。  ●全般性不安障害  特定の対象はなく、漠然とした不安がある状態のことである。過剰な不安(コントロールできないほどの不安など)、運動性緊張(肩こり、緊張性頭痛、振戦など)、自律神経機能亢進(発汗、動機、頻脈など)が数週間〜数ヶ月にわたり毎日出現する。 ●社交不安障害 人前で話すなど、他人の注目を浴びたり恥ずかしい思いをする状況で、緊張による動機、震え、発汗などの身体症状や強い苦痛を感じる状態のことである。不安になる状況を回避するようになり、仕事や学業に支障をきたす。 ●強迫性障害  不合理であるという考えが頭から離れず、不安を打ち消すための行動を繰り返しおこなってしまう状態のことである。 <強迫性障害の例> ・何度も手を洗う ・鍵が閉まっているが何度も確かめる ・衣服を決められた順番で着用する  など <神経症に対する薬物療法>  神経症の治療には、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬、タンドスピロン)、抗うつ薬(三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI))や緊張による振戦を抑えるためにβ遮断薬が用いられることがある。 2 神経症治療薬 1)ベンゾジアゼピン系抗不安薬 ・GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合し、GABA系神経の機能を亢進させる。 ・大脳辺縁系や大脳皮質の神経活動の抑制により、抗不安作用を示す。 ・強迫性障害、解離性障害には有効性が低い。 ・短時間型のものは耐性や依存を生じやすいため、使用期間を最小限にとどめ、減量する際には長時間、超長時間型もののに置き換える。 ・長時間型、超長時間型のものは持ち越し効果が現れることがある。 ・SSRIの効果が現れるまでベンゾジアゼピン系薬を併用し、SSRIの効果が効果発現とともにベンゾジアゼピン系薬を漸減する。 2)タンドスピロン ・5–HT1A受容体刺激によることにより抗不安作用、心身症改善作用を示す。 ・神経終末のセロトニン5–HT2受容体密度低下により抗うつ作用を示す。 ・ベンゾジアゼピン系薬と異なり、筋弛緩作用、催眠作用、抗痙攣作用が少なく、依存性も現れにくい。 3)選択的セロトニン再取り込み阻害薬:SSRI ●気分障害治療薬 参照 <参考:5–HT1A受容体作動薬とSSRIの抗不安作用>  扁桃体や内側前頭前野において、GABA神経に存在する5–HT1A受容体が刺激されると、GABA神経への神経伝達が促進され、抗不安作用が現れると考えられている。また、5–HT1A受容体作用薬やSSRIを長期間投与すると、セロトニン神経からのセロトニンの放出が促進され、GABA神経を興奮させることにより抗不安作用が現れると考えられている。 ◇関連問題◇ 第103回問33 → Read More

非経口投与された薬物の吸収

1 薬物の経鼻吸収 経鼻吸収とは、薬物を鼻粘膜を介して吸収させる方法である。鼻粘膜は、鼻前庭、呼吸部、嗅部より構成されており、薬物の吸収は主に鼻腔下部の大部分を占めている呼吸部で行われる。呼吸部の粘膜上皮は多列線毛上皮が密に接着しているが、薄く、バリア能が低いため、一般に薬物の吸収は良好である。 鼻粘膜に投与された薬物は、基本的に消化管吸収と同様に受動拡散により吸収され、pH分配仮説に従う。このことから、一般に脂溶性の高い薬物の吸収は水溶性薬物に比べ良好であり、また、分子形薬物が脂溶性薬物に比べ吸収されやすい。また、鼻粘膜に投与された薬物は、吸収後、直接循環血液に到達するため、肝初回通過効果を回避することができる。 現在、鼻粘膜を介して投与されている代表的な薬物として、デスモプレシン、ブセレリン、スマトリプタンなどがある。 2 薬物の口腔粘膜からの吸収 口腔粘膜の上皮は、重層扁平上皮で構成されており、消化管粘膜に比べ表皮に近い構造をしている。よって、口腔粘膜には皮膚と同様に角質層が存在する場所があり、この層が薬物透過速度の律速段階となることがある。 口腔粘膜からの薬物の吸収機構は一般に受動拡散であり、pH分配仮説に従う。また、口腔粘膜に投与された薬物は、鼻粘膜に投与された薬物と同様に吸収後、直接循環血液に到達するため、肝初回通過効果を回避することができる。 現在、口腔粘膜を介して投与されている代表的な薬物として、ニトログリセリン、ニコチン、フェンタニルなどがある。 3 薬物の経肺吸収 呼吸器への薬物投与は、従来、喘息治療薬などの局所作用発現を期待する投与経路として用いられてきたが、最近では、消化管から吸収されないような高分子物質に対しても経肺吸収が可能であることが明らかになってきている。 吸入された空気は、咽頭→気管→気管支→細気管支→終末細気管支→肺胞の順に末端部に到達する。肺胞は肺の最小基本単位であり、この部位では本来、空気中の酸素と血液中の二酸化炭素の交換が行われるが、肺に投与された薬物も肺胞より吸収される。 ヒトの肺胞の表面積は200m2と小腸の表面積に匹敵するほどの表面積を有しており、また、肺胞上皮層の厚さは消化管粘膜の厚さに比べ極めて薄いことから肺はガスの交換のみならず薬物の吸収部位としても極めて優れた組織学的特徴を有している。 一般に、肺からの薬物の吸収はⅠ型肺胞上皮細胞を介した単純拡散によるものであり、脂溶性のものが水溶性のものに比べ吸収されやすいとされている。また、経肺吸収される薬物は、用いる剤型の粒子径によっても左右され、0.5〜1µmのものが肺胞に到達し、効率よく吸収される。この粒子径よりも大きい薬物は、気管や気管支に捕捉され、この粒子径よりも小さい薬物は肺胞に到達できるが、呼気中に排泄される。 4 薬物の直腸からの吸収 直腸粘膜は、消化管粘膜と同様に単層円柱上皮細胞で覆われているが、小腸と異なりひだが少なく絨毛も発達していないことから、表面積が狭く、一般に薬物の吸収に適しているとはいいにくい。 直腸下部から吸収された薬物は、肝臓を経由せずに循環血液中に移行することから、肝初回通過効果を受けにくいため、肝臓で初回通過効果を受けやすい薬物の投与経路として適している。また、消化管から吸収されにくい水溶性の薬物の吸収性を改善するために吸収促進剤が用いられることがあり、こうした吸収促進剤(カプリン酸ナトリウムなど)の効果が小腸に比べ顕著に現れることがある。 <参考:カプリン酸ナトリウム> カプリン酸ナトリウムは、坐剤などに添加される吸収促進剤であり、消化管粘膜に作用することによりその構造を変化させ、薬物の透過性を改善する。 5 薬物の経皮吸収 皮膚は、表皮、真皮、皮下組織から構成されており、表皮の最も外側は角質層といわれる角質化した細胞により覆われている。その他、皮膚の表面には毛嚢、エクリン線(汗腺)などの付属器官が存在する。 薬物の経皮吸収は基本的には単純拡散により行われ、脂溶性の高い薬物や分子形の薬物の透過が良好である。薬物の経皮吸収は分子量に依存し、一般には分子量500以上の薬物の経皮吸収は不良である。また、角質層は角質化した細胞であり、バリア機能を有しており薬物の経皮吸収の律速部位となる。 薬物の皮膚透過経路は、角質層を透過する経路と毛穴などの付属器官を通る経路の二つに分けられる。一般に、付属器官からの吸収は速やかであるがその有効面積が角質層に比べ小さいため、ほとんどの薬物は角質層を経由して吸収される。 一般に薬物の経皮吸収は最外層に存在する角質層に大きく制御されていることから、水溶性薬物あ高分子薬物はほとんど皮膚から吸収されない。これら水溶性薬物や高分子薬物の経皮吸収を改善するためには経皮吸収改善法を利用する必要がある。 ●経皮吸収改善法 経皮吸収改善法には、経皮吸収促進剤、プロドラッグ化、イオントフォレシス(皮膚外部から電流を流すことにより薬物吸収を促進する方法)、ソノフォレシス(皮膚表面に超音波を照射することにより薬物の経皮吸収性を改善する方法)、マイクロニードルなどがある。 ◇関連問題◇ 第94回問152、第97回問166、第98回問167、第100回問166、第103回問42 → Read More