73歳男性。体重60 kg。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)肺炎の治療目的でアルベカシン硫酸塩の投与が開始された。
投与開始から3日目に血中アルベカシン濃度の測定依頼があり、測定の結果、トラフ値は3.5 µg/mL、ピーク値(点滴終了30分後採血)は15 µg/mLであった。
検査値(3日目):白血球数9,500/µL、CRP4.8 mg/dL、血清クレアチニン2.84 mg/dL
問274 (実務)
今後のアルベカシン硫酸塩の処方設計に関する医師への提案として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
- 現在の投与計画を継続する。
- 点滴速度を速くする。
- 投与間隔を変えず、1回投与量を増やす。
- 1回投与量を変えず、投与間隔を延ばす。
- 1回投与量を変えず、投与間隔を短縮する。
解答・解説
解答
4
解説
アルベカシンの有効血中濃度は、ピーク値:15〜20 µg/mL、トラフ値:2 µg/mL以下とされている。本症例においては、トラフ値が有効血中濃度よりも高いことから、トラフ値を低く保つために投与量を変更する必要がある。よって、1回投与量を変えず、投与間隔を延ばすように提案することが適切である。なお、本患者は腎機能が低下している(血清クレアチニンが高い)ことから、腎消失型薬物であるアルベカシンの排泄が低下し、血中濃度が上昇していると思われる。
問275 (薬剤)
この患者におけるアルベカシンの分布容積と消失半減期に最も近い値の組合せはどれか。1つ選べ。
ただし、アルベカシンの体内動態は線形1−コンパートメントモデルに従い、3回目投与時点で定常状態にあり、点滴開始後1時間までの消失は無視できるものとする。また、アルベカシン硫酸塩150 mgは、アルベカシン105 mgに相当するものとする。
解答・解説
解答
2
動画解説
解説
<アルベカシンの分布容積を求める>
本設問には、点滴開始1時間までの消失を無視することとすると記載されていることから、1回点滴することにより上昇する血中濃度の値は、ピーク値とトラフ値の差より求めることができる。本設問では、アルベカシンの血中濃度測定の結果、ピーク値が15 µg/mL、トラフ値が3.5 µg/mLであることから、アルベカシンを1回点滴することにより上昇する血中濃度の値を以下のように求めることができる。
アルベカシンを1回点滴することにより上昇する血中濃度の値=15 µg/mL-3.5 µg/mL=11.5 µg/mL
また、1回点滴することにより上昇する血中濃度の値は1回投与量/分布容積より求めることができるため、分布容積を以下の式より求めることができる。
上昇する血中濃度の値=1回投与量÷分布容積
分布容積=1回投与量÷上昇する血中濃度
本設問では、アルベカシン硫酸塩注射液を1回点滴するごとに105 mgのアルベカシンが投与されていることから、アルベカシンの分布容積を以下のように求めることができる。
アルベカシンの分布容積=105 mg÷11.5 µg/mL=105 mg÷11.5 mg/L=9.13 L≒10 L
<アルベカシンの半減期を求める>
ピーク値が15 µg/mL、トラフ値が3.5 µg/mL、投与間隔24時間であることから、24時間の間に血中濃度が約4分の1に低下していることがわかる。線形1−コンパートメントモデルに従う薬物の消失は1次反応により消失するため、血中濃度が4分の1に低下する時間は半減期×2に該当する。
このことから、アルベカシンの半減期を以下のように求めることができる。
アルベカシンの半減期×2=24時間
アルベカシンの半減期=12時間
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