アセチルCoA(アセチルコエンザイムA、Acetyl-Coenzyme A)は、生体内でエネルギー代謝や物質合成において中心的な役割を果たす化合物である。アセチル基(CH₃CO)と補酵素A(CoA)が結合した分子で、糖質、脂質、タンパク質などさまざまな代謝経路に関与する。
1. 構造と特徴
- 化学式: C23H38N7O17P3S
- 構造: アセチル基(CH₃CO)がチオエステル結合で補酵素A(CoA)と結合した形態。
- 高エネルギー分子: チオエステル結合はエネルギーが高く、反応において自由エネルギーを供給する。
2. 生成と代謝
2.1 生成経路
アセチルCoAは、以下の代謝経路で生成されます:
- 解糖系: グルコースがピルビン酸に分解され、その後ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の働きでアセチルCoAに変換される。
ピルビン酸 + CoA + NAD⁺ → アセチルCoA + CO₂ + NADH - β酸化: 脂肪酸が分解され、炭素2個単位のアセチルCoAが生成される。
- アミノ酸代謝: 一部のアミノ酸がアセチルCoAに変換される。
2.2 代謝での役割
アセチルCoAは以下の経路で利用されます:
- クエン酸回路(TCA回路):
アセチルCoAはオキサロ酢酸と結合してクエン酸を生成し、エネルギー産生に重要な役割を果たす。
アセチルCoA+オキサロ酢酸→クエン酸 - 脂肪酸合成:
アセチルCoAはマロニルCoAを経て脂肪酸の合成に利用される。 - ケトン体生成:
アセチルCoAが肝臓でケトン体に変換され、エネルギー供給源として使用される(飢餓時や糖尿病など)。 - ステロイドやコレステロール合成:
アセチルCoAはメバロン酸経路を通じてコレステロールやステロイドホルモンの材料となる。
3. 生理的役割
アセチルCoAはエネルギー代謝だけでなく、物質の合成や分解においても中心的な役割を果たす。
- エネルギー産生:
アセチルCoAがクエン酸回路で分解されることでATPが生成される。 - 脂質合成:
過剰なアセチルCoAは脂肪酸やトリグリセリドの合成に利用される。 - グルコースの貯蔵:
グルコースが余剰となると、アセチルCoAを介して脂肪として貯蔵される。 - エピジェネティクス:
アセチルCoAはヒストンアセチル化の基質となり、遺伝子発現の調節に寄与する。
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