麻薬性鎮痛薬は、非常に強力な鎮痛作用を持ち、あらゆる種類の痛みを抑制するが、長期連用により依存性が生じるため、麻薬として規制されている。
アヘンアルカロイド
アヘンは、ケシ(Papaver somniferum)の未熟な果実の外皮から得られる乳液成分を乾燥・粉末化したもので、多種多様なアルカロイドを含有する。代表的な成分として、フェナントレン誘導体に分類されるモルヒネやコデインがあり、これらは麻薬に指定されている。一方、ベンジルイソキノリン誘導体であるパパベリン(平滑筋弛緩作用)やノスカピン(鎮咳作用)は、麻薬には指定されていない。
アヘンに含まれる主な成分と特徴
| 薬物 | 特徴 |
| フェナントレン誘導体 モルヒネ
|
モルヒネ
強力な鎮痛作用に加え、鎮咳・呼吸抑制など多彩な中枢作用をもつ・精神的および身体的依存を形成し、麻薬に指定されている・イソキノリンアルカロイドの一種 コデイン 鎮痛作用、鎮咳作用を示すが、モルヒネに比べ作用は弱いが、依存性があり、麻薬(1%以下:家庭麻薬)に指定される |
| ベンジル イソキノリン誘導体 パパベリン |
パパベリン
ホスホジエステラーゼ阻害作用により平滑筋を弛緩させ、血管拡張や鎮痙作用を示す・依存性はなく、麻薬には分類されない ノスカピン 延髄(脳幹)の咳嗽中枢を抑制して中枢性鎮咳作用のみを示す・精神的・身体的依存性は認められず、麻薬ではない |
アヘンアルカロイドの構造活性相関
モルヒネ系化合物の薬理作用は、分子構造の特定部位によって大きく左右される。
- 7〜8位の二重結合と水素化
コデインの二重結合を飽和(水素化)したジドロコデインでは、鎮痛作用が増強される。
- C3位のフェノール性OH基のメチル化・エチル化
メチル化(コデイン)やエチル化(エチルモルヒネ)により、依存形成能・鎮痛作用・呼吸抑制作用が弱まる。
- N-メチル基の置換
N-メチル基をN-アリル基に置換するとモルヒネ拮抗作用が生じ、ナロキソンやレバロルファンのような麻薬拮抗薬となる。
- N-メチルフェニルピペリジン環(NMPP)の存在(構造の赤で示したところ)
鎮痛作用の発現には必須構造であり、これが欠けると効果が著しく低下する。
- 4〜5位エーテル結合
鎮痛効果や効力とは無関係。
- 2か所のOH基のアセチル化
ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)のようにアセチル化すると鎮痛作用や陶酔感が増す。 - モルヒネ6-グルクロニドの活性
モルヒネよりも強力な鎮痛作用を示す活性代謝物である。
モルヒネ
臨床的には①鎮痛、②鎮咳、③麻酔前投与、④止瀉の目的で使用される。
内臓痛(がん性疼痛など)にも有効。
主にμ受容体を活性化し、中枢抑制作用(鎮痛・鎮静)、中枢興奮作用(悪心・嘔吐)、末梢作用(便秘・縮瞳)を示す。
加えてκおよびδ受容体にも作用する。
| 作用 | 特徴 |
| 末梢作用 | 平滑筋・括約筋作用 ①止瀉作用(便秘) μ受容体刺激により腸内神経叢からのACh放出が抑制され、蠕動運動が低下。 ②消化管緊張促進 セロトニン(5-HT)放出促進により消化管平滑筋の5-HT₂受容体を刺激、消化管の緊張増加。 ③胆汁分泌抑制 ④ヒスタミン遊離 |
| 中枢抑制作用 | 鎮痛作用 中脳水道周囲灰白質・延髄網様体のμ受容体刺激により、下行性疼痛抑制系が活性化。脊髄後角抑制と一次感覚神経遮断により疼痛伝達を阻止。 鎮咳作用 延髄咳中枢抑制による(コデインより強力) 呼吸抑制作用 延髄呼吸中枢抑制によるチェーン・ストークス型呼吸(大量投与時) 鎮静作用 情動の安定化、不安や緊張の軽減。 |
| 中枢興奮作用 | 催吐作用 延髄CTZのD₂受容体刺激による。 ドパミン受容体拮抗薬で抑制可。 縮瞳作用 動眼神経核刺激を介し副交感神経興奮、AChによる瞳孔括約筋収縮。 アトロピンなど抗コリン薬で抑制可能。 脊髄反射亢進作用 実験動物で投与後、後肢の伸展反応が出現。 |
ヘロイン、モルヒネ、コデインの代謝経路
| 化合物 | 主な代謝経路 | 代謝産物と特徴 |
| ヘロイン | 血中カルボキシルエステラーゼにより加水分解され、ほぼ全てがモルヒネに変換 | 変換後、モルヒネと同様にグルクロン酸抱合され、M-6-Gとして強い鎮痛作用を発揮 |
| モルヒネ | 肝臓で主にグルクロン酸抱合され、2種の抱合体に代謝 | M-3-G:鎮痛作用ほぼなし M-6-G:モルヒネより強力な鎮痛作用(μ受容体親和性が高い) |
| コデイン | 肝臓のCYP2D6によりO-脱メチル化され、一部がモルヒネに変換 | 変換されたモルヒネは上記経路で代謝。 主代謝物はコデイングルクロニド(鎮痛作用は弱い) |
モルヒネの適応と有害事象・注意点
| 項目 | 説明 |
| 適応 | 術後やがん性疼痛、心筋梗塞などの激しい疼痛に対する鎮痛、 強い咳嗽発作の抑制、止瀉作用による下痢症状の改善 |
| 副作用 | 便秘、悪心・嘔吐、眠気など。 便秘は耐性が生じにくく長期使用時に持続するため、予防的に下剤を併用することが望ましい。 悪心・嘔吐は鎮痛用量以下でも出現しうる。 |
| 禁忌 | 気管支喘息発作中(呼吸抑制・気道分泌抑制により悪化の恐れ)、 痙攣発作の既往(脊髄反射亢進作用により悪化の恐れ)など。 |
| 急性中毒 | 主症状は呼吸抑制で、呼吸中枢抑制によりチェーン・ストークス型呼吸や呼吸停止をきたし致死的となることがある。 治療は気道確保、人工呼吸、オピオイド受容体拮抗薬(ナロキソン、レバロルファン)投与など。 過量摂取時は催吐、胃洗浄、中止などを行う。 |
| 連用 による影響 |
耐性:鎮痛、鎮咳、鎮静、陶酔、呼吸抑制などに耐性が生じやすい。 一方、縮瞳、便秘、脊髄反射亢進は耐性が生じにくい。 依存性:長期使用により精神依存・身体依存が形成され、急な中止で退薬症状(流涙、くしゃみ、悪心・嘔吐、振戦、不安、不眠、散瞳など)が出現。 医療管理下で適正使用すれば精神依存は臨床上大きな問題になりにくい。 |
その他のアヘンアルカロイドの概要
モルヒネ以外の天然または半合成アヘンアルカロイドは、基本的な作用機序はモルヒネと同じであるが、作用強度・呼吸抑制作用・依存性の程度に差がある。一般にコデインやジヒドロコデインは作用が弱く、安全域が広いため鎮咳薬として広く用いられる。一方、オキシコドンは強い鎮痛作用を有し、がん性疼痛など中等度〜高度の痛みに使用される。ヘロイン(ジアセチルモルヒネ)はモルヒネよりも強力であり、日本では製造・所持・使用が禁止されている。
アヘンアルカロイドの特徴
ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)
全ての作用においてモルヒネを上回る強さを持つ。
乱用による依存性が極めて高く、日本では輸入・製造・所持・使用が禁止されている。
コデイン
鎮痛・鎮咳・呼吸抑制・依存性はいずれもモルヒネより弱く、安全域が広い。主に鎮咳薬として用いられる。
モルヒネに比べてグルクロン酸抱合を受けにくい。
CYP2D6によりO-脱メチル化され、一部がモルヒネに代謝される。
【適応】
各種呼吸器疾患における鎮咳、疼痛時の鎮痛、激しい下痢症状の改善。
合成麻薬性鎮痛薬
メサドン
モルヒネと比較すると、依存性・耐性・呼吸抑制作用はやや弱い。
鎮痛作用はモルヒネとほぼ同等。
NMDA受容体拮抗作用を有し、神経障害性疼痛や慢性痛にも有効。
【適応】
他の強オピオイド鎮痛薬で効果不十分または治療困難な中等度〜高度の疼痛
ペチジン
μ受容体を刺激するが、鎮痛作用はモルヒネよりも弱く、作用持続時間も短い。
末梢作用としてアトロピン様作用・パパベリン様作用を有し、消化管・胆道平滑筋の痙攣を抑える。
血液胎盤関門を通過しにくいため、産科麻酔で使用されることがある。
【適応】
激しい疼痛における鎮痛・鎮静・鎮痙
麻酔前投薬や麻酔補助
フェンタニル
μオピオイド受容体作動薬で、モルヒネの50〜100倍程度の強い鎮痛作用を示す。
作用発現は速い。
脂溶性・生体内利用率がモルヒネより高い。
主に肝臓で代謝され、肝機能障害では体内に蓄積しやすい。
経皮吸収型(貼付剤)は皮膚組織への浸透性に優れ、持続的な鎮痛効果を発揮するため慢性疼痛に有用。
ドロペリドールとの合剤(50:1)は神経遮断性麻酔として用いられる。
【適応】
非オピオイド鎮痛薬および弱オピオイド鎮痛剤で治療困難な中等度から高度の疼痛を伴う各種がん、慢性疼痛における鎮痛(他のオピオイド鎮痛剤から切り替えて使用する場合に限る)(貼付剤)
レミフェンタニル
μオピオイド受容体作動薬
作用発現は極めて速く、持続時間は非常に短い(超短時間作用型)。
非特異的エステラーゼにより血液や各組織で速やかに分解され、血中半減期は短い。
体内蓄積がほとんどなく、腎・肝機能が低下している患者でも使用可能。
【適応】
全身麻酔導入および維持時の鎮痛(成人)
全身麻酔維持時の鎮痛(小児)
タペンタドール
μオピオイド受容体作動作用とノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つ二重作用性鎮痛薬。
オピオイド作用と下行性疼痛抑制経路の増強作用により鎮痛効果を発揮する。
他のオピオイドで十分な鎮痛が得られない場合にも選択肢となる。
【適応】
中等度〜高度のがん性疼痛の鎮痛
















コメント