MERS-CoV(Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus)は、中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルスで、コロナウイルス科(Coronaviridae)ベータコロナウイルス属(Betacoronavirus)に属する一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。
特徴
- ウイルスの構造
- RNAゲノム: MERS-CoVの遺伝情報は一本鎖プラス鎖RNAで構成されている。
- エンベロープ: 脂質膜(エンベロープ)に覆われ、その表面に突起したスパイクタンパク質(Sタンパク質)を有する。
- 感染メカニズム: スパイクタンパク質がヒト細胞表面の受容体に結合し、細胞内に侵入する。
- 宿主
- 自然宿主: コウモリ。
- 中間宿主: ヒトコブラクダが主要な中間宿主として知られています。
- ヒトへの感染: ヒトは主にヒトコブラクダとの接触や、感染したヒトとの濃厚接触を通じて感染する。
- 分類
- MERS-CoVは、ベータコロナウイルスのC系統(Merbecovirus)に分類される。
感染経路
MERS-CoVは以下の経路で感染する:
- 動物からヒトへの感染: ヒトコブラクダとの密接な接触。
- ヒトからヒトへの感染: 飛沫感染や接触感染が主な経路。
特に医療機関での感染(院内感染)が多い。
症状
潜伏期間は2~14日で、感染後に以下の症状が現れます。
- 初期症状
- 発熱
- 咳、喉の痛み
- 筋肉痛、倦怠感
- 進行症状
- 呼吸困難
- 重症肺炎
- 重症化
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
- 腎不全、敗血症
- 臓器不全(特に免疫力が低下している人や高齢者で重症化リスクが高い)
- 致死率
- 致死率は約35%と非常に高く、特に基礎疾患を持つ人でリスクが増加する。
診断と治療
- 診断
- PCR検査:ウイルスRNAを検出するための標準的な方法。
- 血清学的検査:過去の感染を調べるために使用。
- 治療
- 現在、MERS-CoVに特化した抗ウイルス薬やワクチンは存在しない。
- 主に対症療法が行われます(酸素療法、人工呼吸器など)。
予防方法
- 動物との接触を避ける
- 特にヒトコブラクダと直接触れ合わないようにする。
- 加熱処理されていないラクダ乳や未調理の肉を避ける。
- 感染予防策
- 手洗いやアルコール消毒の徹底。
- 咳エチケットの遵守。
- 医療機関では感染防護具(PPE)の適切な使用。
- 旅行者への注意
- 中東地域への渡航者は、感染リスクを考慮した行動が推奨される。
MERS-CoVとCOVID-19の比較
- 両者は同じベータコロナウイルス属に属しますが、感染力や致死率が異なる。
- MERS-CoVは致死率が高い(約35%)ものの感染力は低い。
- 一方、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は感染力が非常に高いが、致死率は低い傾向にある。




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