DNA(デオキシリボ核酸、Deoxyribonucleic Acid)は、生物の遺伝情報を保持し、世代間でその情報を伝達する役割を担う分子である。細胞内では主に核に存在し、生物の形態や機能を決定する基本的な設計図として機能する。DNAはすべての生物の生命活動を支える中心的な分子であり、遺伝学、生物学、医学の分野で極めて重要な役割を果たしている。
1. DNAの構造
DNAは、ヌクレオチドと呼ばれる基本単位が多数結合して形成されるポリマーである。
1.1 ヌクレオチドの構成要素
1.2 二重らせん構造
- DNAは、2本のヌクレオチド鎖が相補的な塩基対を形成し、らせん状に巻き付いた二重らせん構造を持ちます。
- アデニン(A)とチミン(T)は2本の水素結合で結合。
- グアニン(G)とシトシン(C)は3本の水素結合で結合。
- 二重らせんの外側は糖とリン酸が交互に連なり、主鎖を形成する。
1.3 相補性と方向性
- DNAは5’末端から3’末端の方向性を持ち、二本鎖は逆方向(逆平行)に並ぶ。
- 塩基の相補性により、片方の鎖の情報からもう一方の鎖を正確に再構築できる。
2. DNAの機能
2.1 遺伝情報の保存
- DNAは、生物が生命活動を行うために必要なすべての情報を含む遺伝物質である。
- 各遺伝子は、特定のタンパク質やRNA分子の合成を指示するコード(遺伝暗号)を有する。
2.2 遺伝情報の伝達
- DNAは細胞分裂時に複製され、子孫細胞に正確に遺伝情報を伝達する。
- 生殖細胞を介して親から子へ遺伝情報が受け継がれる。
2.3 遺伝情報の発現
- DNA上の遺伝子情報は、RNA(リボ核酸)を経由してタンパク質として発現する。このプロセスは以下の段階から成る:
- 転写: DNAの塩基配列がRNAに写し取られる。
- 翻訳: RNAの情報をもとにリボソームでタンパク質が合成される。
3. DNAの複製
DNAは、細胞分裂時に自己複製を行い、遺伝情報を次世代に正確に受け渡す。
- DNAヘリカーゼが二重らせんを解きほぐす。
- DNAポリメラーゼが新しいヌクレオチドを結合させ、相補的なDNA鎖を合成する。
- 半保存的複製:元の鎖1本と新たに合成された鎖1本がペアになる。
4. DNAの安定性と変異
4.1 DNAの安定性
- DNAは強固な二重らせん構造により、外部環境の影響に対して比較的安定である。
- 放射線や化学物質、酸化ストレスなどにより損傷を受けることがある。
4.2 DNAの変異
- 損傷が修復されずに残ると、塩基配列に変化(突然変異)が生じることがある。
- 突然変異は進化や遺伝性疾患の原因となる可能性がある。
5. DNAと遺伝子
- 遺伝子はDNAの特定の領域で、タンパク質やRNAの合成に必要な情報を持つ部分である。
- 人のDNAは約30,000の遺伝子を含み、それらが生物の形質を決定する。
6. DNA関連の研究と応用
- 遺伝子工学: DNAを操作して新しい遺伝子やタンパク質を作り出す技術。
- ゲノム編集: CRISPR-Cas9技術により、特定のDNA配列を正確に改変。
- 医療分野: 遺伝子治療や診断法、DNAワクチンの開発。
- 法医学: DNA指紋による個人識別。




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