高血圧治療薬
1 血圧の概念
血圧は血液が血管壁に及ぼす圧力であり、心拍出量と全末梢血管抵抗の積で表される。
血圧=心拍出量(CO)×全抹消血管抵抗(TPR)
血圧が高い状態が継続すると、全身性の血管障害による脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞、慢性腎臓病、高血圧性網膜症や左室肥大による高血圧性心疾患、心不全、心房細動を誘発する。
1)高血圧症
高血圧症は、原因不明の本態性高血圧症と他の疾患や薬剤などが関係する二次性高血圧症に分類される。高血圧症の85〜90%が本態性高血圧症であり、原因は不明であるが、体質、ストレス、塩分の取りすぎ、運動不足、喫煙が関与していると考えられている。また、二次性高血圧には、腎性高血圧(腎実質性高血圧、腎血管系高血圧)、内分泌性高血圧(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色性細胞腫)、血管性高血圧などがある。
2)成人における血圧の分類
診察室血圧測定で140/90 mmHg以上が高血圧として診断される。
3)高血圧の治療
高血圧の治療は、主に生活習慣の是正と降圧薬の投与からなる。生活習慣を是正する方法として、食塩制限(食塩:6 g /日未満)、適性体重を維持する(BMI:25未満)、適度な運動、節酒、禁煙を行うことなどがあげられる。
2 降圧薬の作用点
3 高血圧治療薬
1)Ca2+チャネル遮断薬
●ジヒドロピリジン系
① アムロジピン ② ニフェジピン ③ エホニジピン ④ ニカルジピン ⑤ フェロジピン
⑥ シルニジピン ⑦ アゼルニジピン ⑧ ベニジピン
・血管選択性が高く、血管平滑筋のL型カルシウムチャネルを遮断することにより血管拡張作用を示す。
・アムロジピンは、作用時間が長く、1日1回投与で安定した降圧作用を示す。
・シルニジピンは、L型カルシウムチャネルを遮断するとともに交感神経終末に存在するN型カルシウムチャネルを遮断するため、交感神経終末からのノルアドレナリンの遊離を抑制し、交感神経の興奮を抑制する。このことから反射性頻脈を起こしにくい。
・副作用として、頭痛、顔面紅潮、反射性頻脈などを起こすことがある。
●ベンゾチアゼピン系
① ジルチアゼム
・血管平滑筋のL型カルシウムチャネルを遮断するとともに心筋のCa2+チャネルも遮断して、心収縮力及び心拍数を減少させる。
・副作用として、心不全、徐脈を起こすことがある。
2)レニン−アンギオテンシン系抑制薬
(1)レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系
(2)アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
① アラセプリル ② イミダプリル ③ エナラプリル ④ カプトプリル
⑤ テモカプリル ⑥ リシノプリル
・アンギオテンシン変換酵素(ACE)を阻害し、アンギオテンシンⅡの生成を阻害することにより血管収縮を抑制するとともにアルドステロンの分泌を抑制する。また、キニナーゼⅡを阻害し、ブラジキニンの分解を抑制することにより血管を拡張する。
・心不全改善作用や腎保護作用を期待して用いられる。
・プロドラッグであり、活性代謝物となり効果を示す。
・副作用として、空咳(ブラジキン増加による)、高カリウム血症、血管浮腫を起こすことがある。
(3)アンギオテンシンⅡAT1受容体遮断薬(ARB)
① カンデサルタン シレキセチル ② オルメサルタン メドキソミル ③ ロサルタン
④ バルサルタン ⑤ テルミサルタン ⑥ アジルサルタン ⑦ イルベサルタン
・カンデサルタン シレキセチル及びオルメサルタン メドキソミルはプロドラッグであり、生体内で活性代謝物となり、作用を示す。
・アンギオテンシンⅡAT1受容体を遮断することにより血管収縮を抑制するとともにアルドステロンの分泌を抑制する。
・心不全改善作用や腎保護作用を期待して用いられる。
・副作用として、高カリウム血症、血管浮腫を起こすことがある。
(4)レニン阻害薬
① アリスキレン
・レニンを直接阻害して、レニン−アンギオテンシン系を抑制することにより降圧作用を示す。
・ACE阻害薬、ARBが誘発するレニン分泌に対するネガティブフィードバックを起こさないため、アンギオテンシンⅠ、Ⅱの濃度を持続的に低下させることができる。
・副作用として、高カリウム血症、血管浮腫を起こすことがある。
3)利尿薬
●ループ利尿薬
① フロセミド
・ヘンレ係蹄上行脚のNa+–K+–2Cl-共輸送系を抑制し、利尿作用を示す。
・副作用として低カリウム血症、高尿酸血症、高血糖症を起こすことがある。
●チアジド系利尿薬
① ヒドロクロロチアジド ② トリクロロメチアジド
・遠位尿細管のNa+−Cl-共輸送系を抑制し、利尿作用を示す。
・副作用として低カリウム血症、高尿酸血症、高血糖症、光線過敏症を起こすことがある。
●カリウム保持性利尿薬
① スピロノラクトン ② エプレレノン ③ トリアムテレン
・スピロノラクトン、エプレレノンは、遠位尿細管の後半部から集合管においてアルドステロン受容体を阻害し、利尿作用を示す。
・トリアムテレンは、遠位尿細管の後半部から集合管においてアミロライド感受性Na+チャネルを阻害し、利尿作用を示す。
・副作用として、高カリウム血症を起こすことがある。
4)交感神経系抑制薬
(1)α1受容体遮断薬
① ブナゾシン ② ドキサゾシン ③ プラゾシン ④ テラゾシン ⑤ ウラピジル
・α1B受容体を遮断し、血管平滑筋が弛緩する。
・副作用として、急激な血圧低下、起立性低血圧、肝機能障害を起こすことがある。
(2)β受容体遮断薬
●非選択的β受容体遮断薬
① プロプラノロール ② ピンドロール ③ カルテオロール ④ ニプラジロール
●β1受容体遮断薬
① アテノロール ② メトプロロール ③ ビソプロロール
④ アセブトロール ⑤ セリプロロール
・β1受容体を遮断し、心泊数、心拍出量、心収縮力を低下させるとともにレニン分泌を抑制することで降圧作用を示す。
・副作用として、心不全、徐脈などを起こすことがある。
(3)α1、β受容体遮断薬
① ラベタロール ② アモスラロール ③ アロチノール ④ カルベジロール
・α1受容体を遮断し、血管平滑筋を弛緩させるとともに β1受容体を遮断し、心泊数、心拍出量、心収縮力を低下させることで降圧作用作用を示す。また、レニン分泌を抑制することによりレニン–アンギオテンシン系を抑制する。
・副作用として、起立性低血圧、徐脈、心不全、気管支喘息を起こすことがある。
5)中枢性交感神経抑制薬
① (α-)メチルドパ ② クロニジン ③ グアナベンズ
・中枢神経系の血管運動中枢のα2受容体を刺激することにより、神経細胞の興奮を抑制する。
・交感神経節後ニューロンの終末にあるα2受容体を刺激し、ノルアドレナリンの遊離を抑制する。
・副作用として、口渇、めまい、眠気、徐脈、起立性低血圧、肝機能障害などを起こすことがある。
6)血管拡張薬
① ヒドララジン
・血管平滑筋に直接作用して血管を拡張させることで降圧作用を示す。
・妊娠高血圧症に用いられる。
◇関連問題◇
第97回問248〜249、第98回問33、第99回問260〜261、第100回問256〜257、第101回問32、第101回問157、第102回問250〜251、第103回問156