電子伝達系(Electron Transport Chain, ETC)は、細胞のエネルギーを供給する重要な代謝経路で、主にミトコンドリアの内膜に存在する一連の酵素複合体によって構成されている。この過程は、細胞がATP(細胞のエネルギー通貨)を生成するために不可欠であり、酸素を最終的な電子受容体として利用する。
1. 電子伝達系の基本的な流れ
電子伝達系は、解糖系やクエン酸回路で生成された高エネルギーの電子(主にNADHやFADH₂から供給される)を酸素に渡すことでATPを合成する。
1.1 NADHとFADH₂からの電子供給
- NADHは、NADH脱水素酵素(Complex I)に電子を供給する。
- FADH₂は、コハク酸デヒドロゲナーゼ(Complex II)に電子を供給する。
1.2 酵素複合体を通る電子伝達
- Complex I(NADH脱水素酵素)
NADHから供給された電子は、Complex Iで受け取られ、電子伝達を始めます。この過程でプロトン(H+)がミトコンドリア内膜を越えて内膜に送り込まれる。 - Complex II(コハク酸デヒドロゲナーゼ)
FADH₂から供給された電子は、Complex IIを通って伝達され、ここでもプロトンが内膜を越えて移動する。 - Complex III(シトクロムbc₁複合体)
次に、電子はComplex IIIに渡され、ここでもプロトンがミトコンドリア内膜を越えて輸送される。 - Complex IV(シトクロムc酸化酵素)
最終的に電子はComplex IVに渡され、酸素と結びついて水(H₂O)を生成する。酸素は電子伝達系の最終的な受容体として働く。
1.3 プロトン勾配の生成
- 上記の複合体を通じて電子が移動する間に、プロトンが内膜を越えて輸送される。この過程で、ミトコンドリア膜を越えてプロトン(H+)が積み重なり、プロトン勾配(内膜の内側に高濃度、外側に低濃度)が形成される。
2. ATP合成
- ATP合成酵素(Complex V)は、プロトンが内膜を越えて再び流れる際に、そのエネルギーを利用してATPを合成する。プロトンは、ATP合成酵素を通過することによりエネルギーを放出し、ADP(アデノシン二リン酸)と無機リン酸(Pi)を結びつけてATPを合成する。
3. 電子伝達系の役割と重要性
- ATP合成
電子伝達系はATPの合成において中心的な役割を担っている。ATPは細胞のエネルギー源として、さまざまな細胞活動を支えるために利用される。 - 酸素の利用
酸素は電子伝達系の最終的な受容体として機能する。酸素がないと、電子伝達系は正常に機能せず、ATP合成が停止する。 - エネルギー効率
NADHから供給される電子は、FADH₂よりも多くのATPを生成します。これは、NADHが最初にComplex Iに入るため、より多くのプロトンを膜を越えて輸送することができるためである。
4. 異常と疾患
電子伝達系の異常は、エネルギー代謝の障害を引き起こし、以下のような疾患を引き起こすことがあります:
- ミトコンドリア病
ミトコンドリア内でのエネルギー生成が障害され、筋肉や神経系に影響が及ぶ疾患。
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