1 ヨウ素滴定
ヨウ素滴定には、ヨウ素の酸化作用を利用して滴定を行う「ヨウ素酸化滴定(ヨージメトリー)」とヨウ素の還元作用を利用して滴定を行う「ヨウ素還元滴定(ヨードメトリー)」がある。
①:ヨウ素酸化滴定(ヨージメトリー)
ヨウ素酸化滴定(ヨージメトリー)では、標準液として「ヨウ素液」を用いて、還元性物質(還元剤)の容量分析を行う。
本品を乾燥し、その約0.2 gを精密に量り、メタリン酸溶液(1→50)50 mLに溶かし、0.05 mol/Lヨウ素液で滴定する(指示薬:デンプン試液1 mL)。
0.05 mol/Lヨウ素液1 mL=8.806 mg C6H8O6
・アスコルビン酸の定量における反応
アスコルビン酸にヨウ素を滴下すると、ヨウ素によりアスコルビン酸が酸化されデヒドロアスコルビン酸となる。
・アスコルビン酸の対応数
アスコルビン酸とヨウ素は1:1で反応することから、アスコルビン酸の対応数は「1」となる。対応数がわかれば、他の滴定法と同様の方法により、対応量を求めることができる。
<参考:アスコルビン酸の定量におけるメタリン酸の添加について>
メタリン酸の添加により水溶液は弱酸性となり、余分な金属イオンが錯形成で除かれるので、アスコルビン酸は安定化する。
②:ヨウ素還元滴定(ヨードメトリー)
ヨウ素還元滴定(ヨードメトリー)では、ヨウ素を酸化させる物質にヨウ化カリウムを入れ、ヨウ素を発生させたあと、そのヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定する。
I2+2Na2S2O3 → 2NaI + Na2S4O6
<D−ソルビトールの定量>
本品を乾燥し、その約0.2 gを精密に量り、水に溶かし、正確に100mLとする。この液10 mLを正確に量り、ヨウ素瓶に入れ、過ヨウ素酸カリウム試液50 mLを正確に加え、水浴中で15分間加熱する。冷後、ヨウ化カリウム2.5 gを加え、直ちに密栓してよく振り混ぜ、暗所に5分間放置した後、 遊離したヨウ素を0.1 mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で滴定する(指示薬:デンプン試液3 mL)。同様の方法で空試験を行う。
0.1 mol/Lチオ硫酸ナトリウム液1 mL=1.822 mg C6H14O6
・D−ソルビトールの定量における反応
過ヨウ素酸カリウム(KIO4)は、1,2−ジオールを酸化的に開裂する酸化剤であり、D−ソルビトールには、1,2−ジオール構造を構成するC−C結合が5つあるため、ソルビトールと過ヨウ素酸カリウムは1:5のモル比で反応する。
C6H14O6 + 5 IO4- → 2HCHO +5HCO2H + 5 IO3-+ H2O
過ヨウ素酸イオン(IO4-)、ヨウ素酸イオン(IO3-)はともに酸化力を有しており、ヨウ素イオンと下記のような反応を示す。
IO4-+7I-+ 8H+→ 4I2 + 4H2O
IO3-+6I-+ 6H+→ 3I2 + 3H2O
上記のことから、ソルビトール1molに対してヨウ素が5mol消費されるため、空試験と本試験のヨウ素のモル数の差より、ソルビトールのモル数が求まる。
・ソルビトールの対応数
ソルビトールと過ヨウ素酸イオンは1:5で反応する。ソルビトールの定量において反応した過ヨウ素酸イオンのモル数はヨウ素のモル数に相当し、ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムは、1:2で反応することから、間接的にソルビトールとチオ硫酸ナトリウムは1:10で反応すると考えられる。このことからソルビトールの対応数は「10」となる。
2 臭素滴定
臭素滴定では、分析対象物に対して過量の臭素液を加え、反応後に残ったBr2に対してヨウ素還元滴定(ヨードメトリー)を行うことにより、分析対象物を間接的に定量する。
本品約1.5 gを精密に量り、水に溶かし正確に1000 mLとし、この液25mLを正確に量り、ヨウ素瓶に入れ、正確に0.05 mol/L臭素液30mLを加え、更に塩酸5mLを加え、直ちに密栓して30分間しばしば振り混ぜ、15分間放置する。次にヨウ化カリウム試液7mLを加え、直ちに密栓してよく振り混ぜ、クロロホルム1mLを加え、密栓して激しく振り混ぜ、遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で滴定する(指示薬:デンプン試液1 mL)。同様の方法で空試験を行う。
0.05 mol/L臭素液1 mL=1.569 mg C6H6O
・フェノールの定量における対応数
フェノールと臭素は1:3で反応するため、フェノールの対応数は「3」となる。
3 過マンガン酸塩滴定
強酸性条件下では、赤紫色の過マンガン酸イオン(MnO4-)は、他の物質を酸化することにより無色のマンガンイオン(Mn2+)となる。この色調変化を利用し、還元性物質を定量する方法が過マンガン酸塩滴定である。
<オキシドール中の過酸化水素(分子量:34.01)の定量>
本品1.0mLを正確に量り、水10mL及び希硫酸10mLを入れたフラスコに加え、0.02mol/L過マンガン酸カリウム液で滴定する。
0.02 mol/L過マンガン酸カリウム液1 mL=1.701 mg H2O2
・オキシドールの定量における過酸化水素(H2O2)の反応、対応数
5H2O2 + 2MnO4-(赤紫色) + 6H+ → 5O2 + 2Mn2+ (無色)+ 8H2O
過酸化水素と過マンガン酸イオンは5:2で反応するため、オキシドール中の過酸化水素の対応数は「2/5」となる。
4 ジアゾ化滴定
芳香族第一級アミンと亜硝酸を反応させると、芳香族ジアゾニウム塩が生成する。この反応に基づく滴定がジアゾ化滴定である。本滴定では、標準液として「亜硝酸ナトリウム液」を用いて、構造中に芳香族第一級アミンを含む医薬品をジアゾ化することで容量分析を行う。
<アミノ安息香酸エチルの定量>
本品を乾燥し、その約0.25 gを精密に量り、塩酸10 mL及び水70 mLを加えて溶かし、更に臭化カリウム溶液(3 →10)10 mLを加え,15℃以下に冷却した後、0.1mol/L亜硝酸ナトリウム液で電位差滴定法又は電流滴定法により滴定する。
0.1 mol/L亜硝酸ナトリウム液1 mL=16.52 mg C9H11NO2
・アミノ安息香酸エチルの定量における反応、対応数
アミノ安息香酸エチルと亜硝酸は1:1で反応するため、アミノ安息香酸エチルの対応数は「1」となる。
◇関連問題◇
第92回問29、第97回問95、第104回問93