薬剤師国家試験出題項目

質量分析法

 質量分析法は、分子をイオン化して質量を求める技術であり、医薬品やタンパク質の解析などに幅広く用いられている。

1 質量

 質量は、物質固有の値であり、その単位は国際単位系(SI)ではkgで表されるが、質量分析法では、統一原子質量単位(u)で表される。1uとは、12C(陽子6、中性子6、電子6)1原子の質量を12.000としたときの1/12の質量と定義されている。陽子、中性子、電子はそれぞれ異なる質量を有するため、12C以外の核種は小数点以下の端数を有する。

質量分析法を理解するためには、次の3つの質量についても把握しておく必要がある。

●相対分子質量(平均質量)
平均原子質量をもとに計算した質量
●モノアイソトピック質量(精密質量)
天然存在比最大の同位体で構成されているとしたときの質量
(最小質量の同位体を組み合わせた質量という解釈もある。)
●最大強度質量
もっとも確率の高い同位体の組み合わせによる質量

 

例)臭素分子(Br2)の質量について
Brの同位体の精密質量と天然存在比は、79Br=78.918、50.69%、81Br=80.916、49.31%であり、このデータをもとに臭素分子(Br2)の平均質量、モノアイトピック質量、最大強度質量を計算する。

●相対分子質量(平均質量)
 臭素(Br)の平均原子質量=78.918×0.5069+80.916×0.4931=79.903であることから、臭素分子(Br2)の平均質量は、79.903×2=159.806となる。

●モノアイソトピック質量
臭素において天然存在比がもっとも大きい同位体は79Brであることから、臭素分子(Br2)のモノアイソトピック質量は、78.918×2=157.836となる。

●最大強度質量
 79Brと81Brは天然に約1:1で存在することから、Br2の組合せは以下のように考えることができる。

上記の表より、79Br79Br:79Br81Br:81Br81Br=1:2:1で存在する。
このことから、臭素分子(Br2)の最大強度質量は78.918+80.916=159.834となる。

<参考:塩素分子の質量強度比>
35Clと37Clは天然に約3:1で存在することから、Cl2の組合せは以下のように考えることができる。

上記の表より、35Cl35Cl:35Cl37Cl:37Cl37Cl=9:6:1で存在する。

2 マススペクトル

マススペクトルは、縦軸にシグナルの相対強度、横軸にm/z(質量電荷比)をとり、プロットしたものであり、スペクトル上のシグナルをピークという。

① 分子イオンピーク
 分子イオンの示すピーク、化合物の分子量と同じ値に現れるピークであり、上記のスペクトルでは、m/z=150のピークに該当する。

<参考:窒素則>
分子内に窒素が0または偶数個含まれている場合、分子イオンピークは偶数となり、分子内に窒素が奇数個含まれている場合、分子イオンピークは奇数となる。

② 同位体イオンピーク
同位体由来のイオンのピーク、上記のスペクトルでは、m/z=151のピークに該当する。
m/z=150のピークについては、9個の12Cにより構成されている分子によるピークであり、m/z=151のピークについては、8個の12Cと1個の13Cにより構成されている分子によるピークであると考えられる。

<参考:分子内に臭素、塩素が含まれている場合>
 臭素1個含まれる場合、同位体ピークは1:1で現れ、臭素2個含まれる場合、同位体ピークは1:2:1で現れる。また、塩素1個含まれる場合、同位体ピークは3:1で現れ、塩素2個含まれる場合、同位体ピークは9:6:1で現れる。

③ 基準ピーク
マススペクトル中で最大強度のピーク

④ フラグメント(イオン)ピーク
分子内の結合が開裂して小さなイオンに分解する過程(フラグメンテーション)により生じたイオンのピーク

3 質量分析計

質量分析計は、「試料導入部」「イオン化部」「質量分離部」「イオン検出部」より構成されている。

1)イオン化部とイオン化法 

質量分析を行うためには、試料をイオン化する必要がある。質量分析に用いられているイオン化の方法には、電子イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、高速原子衝撃(FAB)イオン化法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、大気圧化学イオン(APCI)法などがある。

(1)電子イオン化(EI)法
 熱電子によりイオン化する方法であり、低分子量(分子量1000程度まで)の揮発性試料・気体試料のイオン化に適する。電子イオン化法では、ラジカルカチオンが生成される。ラジカルカチオンはフラグメンテーション(開裂)を起こしやすいため、フラグメテーションパターンの再現性が良い。

<参考:フラグメンテーション(開裂)>
イオン化を行うと、過剰なエネルギーにより分子内の結合が開裂(フラグメンテーション)することがある。フラグメンテーションには、単純開裂と転移を伴う開裂がある。

●単純開裂
ラジカル開裂:共有電子対が1個ずつ反対方向に移動して起きる開裂
イオン開裂:共有電子対が2個とも同じ方向に移動して起こる開裂

●転移を伴う開裂
McLafferty転位
六員環遷移状態を経て水素が転位する現象であり、試料中の分子はγ位の炭素に結合する水素原子を有していなければならない。

(2)化学イオン化(CI)法
 試料ガス(メタン、イソブタン、アンモニアなど)がイオン化されて生成する反応イオンと試料分子Mを反応させてイオン化する方法であり、低分子量(分子量1000程度まで)の揮発性試料・気体試料のイオン化に適する。EIと異なり得られるイオンが安定であるため、不安定な化合物のイオン化に適しており、フラグメンテーションも少ない。

(3)高速原子衝撃(FAB)イオン化法
 加速した中性原子(Ar、Xeなど)の収束ビームによりイオン化する方法であり、EIやCIと異なり難揮発性分子も室温でイオン化することが可能である。中性原子の衝突によるイオン化以外に、プロトン移動反応やイオン−分子反応などによるイオン化が認められる。

 (4)エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
 真空状態にする必要がない大気圧下で行うことができるイオン化法であり、低分子から生体高分子(ペプチド、タンパク質、多糖など)まで、比較的極性の高い試料のイオン化に適している。プロトン付加による多価カチオンやプロトン脱離による多価アニオンが生成するため、イオン分離部の測定限界を超えた分子の測定も可能となる。

例)m/z:2000の測定限界の質量分析計でも、6価のイオンが生じれば、分子量9,000の分子は計算的には、m/z:9,000/6=1,500となり、計測が可能となる。

(5)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法
 試料を固体または液体のマトリックスと混合し、パルスレーザーを照射してイオン化する方法であり、極性の高分子化合物(タンパク質など)のイオン化に適している。飛行時間型質量分析計と組合わせて用いられることが多く、ESI法と異なり多価イオンを生じることなく直接高分子の分子量を測定することできる。

 (6)大気圧化学イオン化(APCI)法
 ESIと同様に大気圧下で行われるイオン化法であり、ESIに比べ、低分子、低極性分子のイオン化に適している。

2)質量分離部

 質量分離部では、イオン化部で生成したイオンがm/z値に基づき分離される。

(1)磁場セクター型質量分析計
 磁場セクター型質量分析計(扇型磁場型質量分析計)は、イオン加速部で加速させたイオンを磁束密度Bの磁場を通過させることにより分離する。

(2)四重極型質量分析計
 四重極型質量分析計は、4本の棒電極を用いて、特定の質量のイオンのみを分離する。

3)飛行時間型質量分析計

飛行時間型質量分析計は、イオンが検出器に到達するまでの飛行時間を測定して質量分離を行う。

4 質量分離能

 質量分離能(質量分解度)は、質量分析計において隣接した2つのイオンピークをどの程度分離できるかを表したものであり、質量分離能が大きいほど、小さな質量差のピークの分離、検出が可能となる。質量分解能Rについては、2つの計算法(半値幅法、10%谷法)がある。

1)半値幅法

2)10%谷法

10%谷法において、m/z値が1000.0と1000.1のイオンを明瞭に区別できる分解能は1000.0/0.1=10000となる。

◇関連問題◇
第89回問24、第94回問31、第98回問99、第102回問100

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