1 薬物代謝酵素の誘導のメカニズムと薬物間相互作用
酵素誘導とは、薬物代謝酵素遺伝子の転写促進などにより、代謝酵素の発現量が増えて代謝能が増大することである。酵素誘導作用を有する薬物は、特定の核内受容体に結合して核内に移行し、代謝酵素遺伝子の転写を促進することにより薬物代謝酵素を誘導する。酵素誘導を引き起こす薬物を摂取すると、誘導された代謝酵素の基質となる薬物の消失が速くなり、薬効が減弱する。薬物代謝酵素の誘導には、転写、翻訳が関与するため、誘導薬を摂取後、数日から数週間後に酵素誘導効果が認められる。
1)リファンピリンによる酵素誘導による相互作用
リファンピシンは、CYP3A4をはじめ多くの代謝酵素を誘導することから、肝代謝により消失する薬物の薬効を減弱させることがある。
2)喫煙による酵素誘導による相互作用
喫煙によりCYP1A2が誘導されるため、喫煙者では、テオフィリンの作用が減弱することがある。喫煙していた人が、喘息が悪化することを理由に禁煙すると、CYP1A2の量がもとの状態に戻るため、テオフィリンの効果が増強することがある。テオフィリンを服用していた人が禁煙する場合には、禁煙と共にテオフィリンの減量を検討する必要がある。
3)アルコール摂取による酵素誘導とアセトアミノフェンの毒性
アルコールを連用すると、CYP2E1が誘導されることがある。アセトアミノフェンはそのほとんどがグルクロン酸抱合、硫酸抱合を受け排泄されるが、一部はCYPによる代謝を受け、肝毒性を有するN−アセチルベンゾキノンイミンを生成する。アルコール連用している人がアセトアミノフェンを服用すると、N−アセチルベンゾキノンイミンによる肝毒性が現れやすくなるため、両者は併用注意とされている。
2 薬物代謝酵素の阻害のメカニズムと薬物間相互作用
肝代謝により消失する薬物と酵素阻害剤を併用すると、薬物の体内からの消失が遅延し、副作用が起こることがある。
強い阻害作用:相互作用を受けやすい基質薬のAUCが5倍以上に上昇
中程度の阻害作用:相互作用を受けやすい基質薬のAUCが2倍以上5倍未満に上昇
弱い阻害作用:相互作用を受けやすい薬物のAUCが1.25倍以上2倍未満に上昇
1)薬物代謝阻害のメカニズム
(1)マクロライド系抗生物質によるCYPの阻害
マクロライド系抗生物質の中には、CYP3A4により代謝を受けたあと生成される代謝物がCYPと複合体を形成することによりCYPを失活させるものがある。特に14員環マクロライド系抗生物質であるクラリスロマイシン、エリスロマイシンは強〜中程度のCYP3A4阻害作用を示すが、15員環マクロライド系抗生物質であるアジスロマイシン、16員環マクロライド系抗生物質であるジョサマイシンはCYP阻害作用が弱いとされている。
(2)グレープフルーツジュースによるCYPの阻害
グレープフルーツジュース中に含まれているフラノクマリン類もマクロライド系抗生物質と同様のメカニズムにより小腸のCYP3A4を阻害する。グレープフルーツジュースを一度摂取すると、CYP3A4の活性が回復するまでに約4日程度要するとされている。
(3)イミダゾール骨格、トリアゾール骨格を有する薬物によるCYPの阻害
イミダゾール骨格やトリアゾール骨格を有する薬物はCYPのヘム鉄に配位することにより、CYPの活性を低下させる。イミダゾール骨格を有する薬物には、シメチジン、ケトコナゾールなどがあり、トリアゾール骨格を有する薬物には、イトラコナゾールなどがある。
2)酵素阻害による相互作用
以下に酵素阻害による相互作用の代表例を示す。
◇関連問題◇
第98回問238〜239、第98回問272〜273、第99回問45、第100回問220〜221、第100回問270〜271、第101回問268〜269、第101回問272〜273、第103回問220〜221、第103回問250〜251、第103回問256〜257、第103回問270〜271、第103回問278〜279、第104回問167、第104回問270〜271