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第110回薬剤師国家試験 問196〜197

70歳男性。陳旧性心筋梗塞、胆管結石の往歴があり、交通外傷で緊急搬送され、入院となった。
 入院直後に、心室細動、心肺停止となり院内急変対応チームが対応し、心肺蘇生を行ったところ心拍は再開した。その時、バイタルサインは体温34.5℃、血圧86/50 mmHg、心拍113/分、呼吸数27/分で、超音波検査等を実施し、外傷による出血性ショックの診断となった。気管挿管後人工呼吸器管理とし、緊急輸血を行い、生理食塩液とアドレナリン注1mgを投与した。
生理食塩液の持続投与下で動脈血液ガス等を確認した結果、医師は8.4w/v%炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)注射液の点滴を開始した。点滴開始から90分後に状態の改善を認めた。8.4w/v% NaHCO₃注射液点滴開始前と点滴開始から90分後の動脈血液ガス等は以下のとおりであった。

問196(物理・化学・生物)
血液中HCO3について、NaHCO3注射液の点滴開始前の物質量と開始90分後の物質量の差は8.4 w/v% NaHCO3注射液何mLに相当するか。1つ選べ。ただし、この患者の血液の体積を5.0Lとし、点滴による変化や代謝等は考慮しないものとする。また、NaHCO3の式量を84とする。

  1. 24mL
  2. 48mL
  3. 63mL
  4. 87mL
  5. 102mL
解答・解説

解答
4

解説
NaHCO₃(炭酸水素ナトリウム)注射液の投与により、血中HCO₃⁻濃度が変化している。この濃度差が示す物質量の変化に相当するNaHCO₃注射液の投与量(mL)を求める。

【Step 1】血中HCO₃⁻濃度(mEq/L)の差を求める。
点滴開始前の血中HCO₃⁻濃度は10.1 mEq/L、点滴90分後は27.4 mEq/Lであることから、その差は 27.4-10.1=17.3 mEq/L。これは、1Lの血液あたり17.3 mmolのHCO₃⁻が増えたことを意味する。

【Step 2】血液中の増加したNaHCO₃の物質量を求める。
この患者の血液量は5.0 Lと仮定されているため、17.3 mmol/L × 5.0 L = 86.5 mmol NaHCO₃が体内に増加したことになる。

【Step 3】8.4 w/v% NaHCO₃注射液のモル濃度を求める。
8.4 w/v%」とは、「100 mL中にNaHCO₃8.4 g含まれる」ことを意味する。NaHCO₃の分子量(式量)は84であるため、8.4 g ÷ 84 g/mol = 0.1 mol → 8.4 w/v = 1 mol/L

【Step 4】注射液の必要量を計算
1 mol/LのNaHCO₃注射液をx mL投与して86.5 mmolを補う場合、以下の式が成り立つ
1 mol
1000 mL 86.5 mmolx mL

問197(実務)
生理食塩液の持続投与に加え、8.4w/v%NaHCO3注射液が処方された理由として最も適切なのはどれか。1つ選べ。

  1. ケトアシドーシスであったため。
  2. 呼吸性アシドーシスであったため。
  3. 代謝性アシドーシスであったため。
  4. PaO2が高値であったため。
  5. ヘモグロビンが低値であったため。
解答・解説

解答
3

解説
1 誤
この患者の尿検査ではケトン体が陰性であり、ケトアシドーシス(糖尿病性ケトアシドーシスなど)の所見は認められていない。

2 誤
呼吸性アシドーシスは、肺の換気障害により二酸化炭素(PaCO₂)が蓄積し、血液が酸性に傾く病態である。しかし本症例では、人工呼吸管理が行われており、PaCO₂は改善傾向(63.7 → 45.5 mmHg)を示しているため、呼吸性アシドーシスとは考えにくい。

3 正
本症例では、NaHCO₃投与前のBase Excess(塩基過剰)が−23.0 mEq/Lと著しく低下しており、これは重度の代謝性アシドーシスを示す。また、pH 6.82と強い酸性側に傾いていることから、緊急的な補正が必要と判断される。NaHCO₃は、血中HCO₃⁻を補充して酸塩基平衡を是正する目的で使用される。したがって、最も妥当な投与理由は「代謝性アシドーシスの補正」である。

4 誤
 PaO₂130 mmHg以上と高値を示しているが、これは酸素投与または人工呼吸管理の影響によるものであり、NaHCO₃の投与適応とは直接関係しない。

5 誤
ヘモグロビン値(9.0 g/dL)は基準値よりやや低いものの、NaHCO₃の投与は酸塩基平衡の補正が主目的であり、貧血に対する治療ではない。したがって、これも適応理由にはならない。

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