65歳男性。身長160cm、体重58kg。開胸心血管バイパス術施行後4日目に38.5°Cの発熱を来し、喀痰、血液培養、尿、鼻汁を用いたグラム染色の結果、陽性であった。細菌培養の結果が得られるまで48時間程度を要することから、院内感染制御チームへのコンサルトの結果、MRSA感染症を疑い、当日夜よりバンコマイシン点滴静注用の14日間投与が決定された。バンコマイシン投与前の検査値を以下に示す。
(検査値)
白血球数13,000/μL、CRP7.5mg/dL、血清クレアチニン値1.2mg/dL、BUN17.6mg/dL、
クレアチニンクリアランス(Ccr)50mL/min
バンコマイシンの投与量決定には母集団薬物動態解析により得られた以下のパラメータを用いた。
CL(L/hr)=0.05×Ccr(mL/min)[Ccrが85mL/min以下の場合]
CL(L/hr)=3.5[Ccrが85mL/minより大きい場合]
Vd(L)=60.7
問272(薬剤)
母集団薬物動態解析及びこの患者の投与量決定に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 患者集団の平均的な薬物動態パラメータは、年齢、体重、Vdが同じ患者群を母集団として解析することで得られる。
- バンコマイシンのクリアランスは最小発育阻止濃度(MIC)により影響をうける。
- この患者の投与量決定には分布容積60.7Lとクリアランス2.5L/hを用いた。
- 患者の1点の血中濃度測定値、患者情報、及び母集団パラメータとその変動要因を用いて、ベイジアン法により患者個々の薬物動態パラメータが推定できる。
- 母集団パラメータを求めるためには、集団ごとに血液採取時間を一定にする必要がある。
問273(薬理)
バンコマイシンの治療効果及び副作用に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- ペンタペプチドC末端のD-Ala-D–Alaに結合して、細胞壁合成を抑制する。
- 細菌リボソーム30Sサブユニットに結合して、タンパク質合成を抑制する。
- 翻訳過程の50S開始複合体の形成を阻害して、タンパク質合成を抑制する。
- ヒスタミンの遊離を促進して、レッドネック症候群を引き起こす。
- 非ステロイド性抗炎症薬との併用により、痙れんを引き起こす。
問274(実務)
バンコマイシン投与後の副作用確認のために薬剤師が行うモニタリングとして、適切なのはどれか。2つ選べ。
- 投与直後はアナフィラキシーショックが発現することがあるので、皮疹や呼吸困難の有無を確認する。
- 高血圧が発現しやすいので、朝晩の血圧を確認する。
- 第8脳神経障害の副作用が発現することがあるので、視力を確認する。
- 低アルブミン血症の発現頻度が高いので、面談時に全身のむくみを確認する。
- 腎障害が発現することがあるので、血清クレアチニン値や尿量を確認する。
問275(実務)
バンコマイシン投与開始後、以下の経過をたどった。
1日目(バイパス術施行後4日目)バンコマイシン点滴静注用の投与開始。
3日目血液サンプルの細菌培養でMRSA陽性。そのMICは2.0ng/mL。
7日目体温36.5°C。
10日目CRP0.2mg/dL。体温36.2°C。白血球数2,500/μL。
以上の治療経過を踏まえた病棟担当薬剤師の主治医への対応について、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
- バンコマイシン散への変更を提案した。
- バンコマイシンの目標血中濃度は15µg/mLにするべきであると提案した。
- 既に解熱しているので、バンコマイシンを全期間投与せず、早期終了を提案した。
- 再度、喀痰、血液、尿、鼻汁の細菌検査を依頼するよう提案した。
- バンコマイシンによる血球減少を疑い、投与中止を提案した。
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