日本薬局方には、医薬品の確認試験として、無機イオンの定性反応について多く掲載されているが、全てを把握することは困難である。そこで、どの定性反応であるか判断するために必要な内容をまとめた。
1 希HClを加えて、沈殿が生じる。
「銀塩(Ag+)」
試料溶液に希HClを加えるとAgCl(白色沈殿)を生じる。AgCl(白色沈殿)は、希硝酸では溶けないが、過量のNH3試液に溶ける。
「第一水銀塩(Hg22+)」
試料溶液に希HClを加えるとHg2Cl2(白色沈殿)を生じる。Hg2Cl2(白色沈殿)に、NH3を添加すると黒色へ変化する。
2 希H2SO4を加えて、沈殿が生じる。
「鉛塩(Pb2+)」
試料溶液に希H2SO4を加えると、PbSO4(白色沈殿)を生じる。PbSO4(白色沈殿)は、NaOH試液またはCH3CO2NH4試液に溶解する。
「バリウム塩(Ba2+)」
試料溶液に希H2SO4を加えると、BaSO4(白色沈殿)を生じる。BaSO4(白色沈殿)は、希硝酸を追加しても溶けない。
参考:硫酸塩(SO42-)の定性反応では、BaCl2や酢酸鉛(Ⅱ)を加え、白色沈殿を生じさせる。
3 K2CrO4試液を加えて、沈殿が生じる。
「銀塩(Ag+)」
試料溶液にK2CrO4試液を加えると、Ag2CrO4(赤色沈殿)を生じる。Ag2CrO4(赤色沈殿)は、希硝酸で溶ける。
「鉛塩(Pb2+)」
試料の希酢酸溶液にK2CrO4試液を追加すると、PbCrO4(黄色沈殿)を生じる。PbCrO4(黄色沈殿)は、NH3試液では溶けないが、NaOH試液を追加すると溶ける。
「バリウム塩(Ba2+)」
酢酸酸性溶液にK2CrO4試液を追加すると、BaCrO4(黄色沈殿)を生じる。BaCrO4(黄色沈殿)は希硝酸により溶解する。
参考:クロム酸(CrO42-)の定性反応では、酢酸鉛(Ⅱ)を加え、黄色沈殿を生じさせる。
4 NH3試液を加えて、沈殿が生じる。
「銀塩(Ag+)」
試料溶液にNH3試液を加えると、Ag2O(灰褐色沈殿)を生じる。Ag2O(灰褐色沈殿)は、過量のNH3試液で溶ける。
「第二銅塩(Cu2+)」
試料溶液に少量のNH3試液を加えると、Cu(OH)2(淡青色沈殿)を生じる。Cu(OH)2(淡青色沈殿)は、過量のNH3試液で溶け、濃青色を呈する。
「第一スズ塩(Sn2+)」
塩酸酸性溶液に沈殿が生じるまでNH3試液を滴加、Na2S試液を追加する。SnS(暗褐色沈殿)を生じ、Na2S試液を追加しても沈殿は溶けない。
「第二スズ塩(Sn4+)」
塩酸酸性溶液に沈殿が生じるまでNH3試液を滴加、Na2S試液を追加する。SnS2(淡黄色沈殿)を生じ、Na2S試液を追加すると沈殿は溶ける。
「アルミニウム塩(Al3+)」
試料溶液にNH4Cl試液およびNH3試液を加えると、Al(OH)3(白色ゲル状沈殿)を生じる。Al(OH)3(白色ゲル状沈殿)は、過量のNH3試液では溶けない。
「マンガン塩(Mn2+)」
試料溶液にNH3試液を加えると、Mn(OH)2(白色沈殿)を生じる。Mn(OH)2(白色沈殿)は、AgNO3試液を追加すると黒色に変化する。
「セリウム塩(Ce3+)」
過酸化水素試液およびNH3試液を加えると、Ce(OH)3 O2H(黄色〜赤褐色沈殿)を生じる。
5 NaOH試液を加えて、沈殿が生じる。
「第一水銀塩(Hg22+)」
試料溶液にNaOH試液を加えると、Hg(黒色沈殿)を生じる。
「鉛塩(Pb2+)」
試料溶液にNaOH試液を加えると、Pb(OH)2(白色沈殿)を生じる。Pb(OH)2(白色沈殿)は、過量のNaOH試液で溶ける。
「第一鉄塩(Fe2+)」
試料溶液にNaOH試液を加えると、Fe(OH)2(灰緑色ゲル状沈殿)を生じる。
「第二鉄塩(Fe3+)」
試料溶液にNaOH試液を加えると、Fe(OH)3(赤褐色ゲル状沈殿)を生じる。
「アルミニウム塩(Al3+)」
試料溶液にNaOH試液を加えると、Al(OH)3(白色ゲル状沈殿)を生じる。Al(OH)3(白色ゲル状沈殿)は、過量のNaOH試液で溶ける。
「マグネシウム塩(Mg2+)」
試料溶液にNaOH試液を加えると、Mg(OH)2(白色沈殿)を生じる。Mn(OH)2(白色沈殿)は、過量のNaOH試液では溶けない。
6 ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム(K4[Fe(CN)6])を加えて、沈殿が生じる。
「第二銅塩(Cu2+)」
試料溶液にヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム(K4[Fe(CN)6])試液を加えると、Cu2[Fe(CN)6](赤褐色沈殿)を生じる。
「第二鉄塩(Fe3+)」
弱酸性でヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム(K4[Fe(CN)6])試液を加えると、青色沈殿(ベルリン青)を生じる。
「亜鉛塩(Zn2+)」
試料溶液にヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム(K4[Fe(CN)6])試液を加えると、白色沈殿を生じる。
参考:フェロシアン化物(Fe(CN)64-)の定性反応では、FeCl3、CuSO4を加え、沈殿を生じさせる。
7 炎色反応(1)
バリウム塩(Ba2+):黄緑色
カルシウム塩(Ca2+):黄赤色
ナトリウム塩(Na+):黄色
カリウム塩(K+):淡紫色
リチウム塩(Li+):赤色
8 炭酸塩(CO32-)と炭酸水素塩(HCO3-)の定性反応
炭酸塩、炭酸水素塩は共に希塩酸を加えると泡立ち二酸化炭素を生じる。炭酸塩と炭酸水素酸塩を比較すると炭酸塩の方が塩基性が強いため、炭酸塩を溶解した方がpHが高くなる。このことを利用して、フェノールフタレインによる呈色反応により、炭酸塩(赤色)と炭酸水素塩(赤色に呈色しないか、呈色しても極めて薄い)を区別することができる。
9 ハロゲン化物の定性反応
ヨウ化物(I-)、臭化物(Br-)、塩化物(Cl-)は、硝酸銀(AgNO3)を加えると、黄色沈殿(AgI)、淡黄色沈殿(AgBr)、白色沈殿(AgCl)を生じる。
10 シアン化物(CN-)、チオシアン酸塩(SCN-)の定性反応
シアン化物(CN-)、チオシアン酸塩(SCN-)は、硝酸銀(AgNO3)を加えると、白色沈殿(AgCN、AgSCN)を生じる。シアン化物(CN-)はFeSO4、FeCl3で青色沈殿を生じ、チオシアン化物(SCN-)は、FeCl3で赤色を呈する。
11 チオ硫酸塩(S2O3-)の定性反応
チオ硫酸塩は、還元作用によりヨウ素(I2)を還元するため、ヨウ素試液を滴加すると、ヨウ素試液の褐色が消える。
12 クロム酸塩(CrO42-)、二クロム酸塩(Cr2O72-)の定性反応
クロム酸塩(CrO42-)の試料溶液は黄色、二クロム酸塩(Cr2O72-)の試料溶液は黄赤色である。硫酸酸性溶液に酢酸エチルとH2O2を加えると、酢酸エチル層は青色を呈する。
13 リン酸塩(PO43-)の定性反応
中性溶液に硝酸銀(AgNO3)を加えると、黄色沈殿を生じる。生成した沈殿は、希硝酸、NH3試液により溶ける。七モリブデン酸六アンモニウム試液により黄色沈殿やマグネシア試液により白色結晶性沈殿を生じる。
14 ホウ酸塩(BO2-)の定性反応
硫酸及びメタノールを混ぜて点火するとき、緑色の炎をあげて燃える。
15 過マンガン酸塩(MnO4-)の定性反応
過マンガン酸塩(MnO4-)試料溶液は、赤紫色である。過マンガン酸塩(MnO4-)の硫酸酸性溶液に過量のH2O2を加えると、泡立って脱色し、過量のシュウ酸試液を加え加熱すると、脱色する。
16 酸化性陰イオン、還元性陰イオンについて
H2SO4酸性の酸化性の陰イオン溶液にKIを加えると黄褐色のI2を析出し、これにクロロホルムを加えると、クロロホルム層が紫色を呈する。
H2SO4酸性の還元性の陰イオン溶液にKMnO4を滴加すると、KMnO4の赤紫色が脱色する。また、I2を滴加すると、I2の褐色が脱色する。
◇関連問題◇
第98回問5、第101回問97