薬剤師国家試験出題項目

核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定法

核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定法は、有機化合物の構造決定やタンパク質の生体高分子の立体構造解析などに利用されており、薬学の広い分野で活用されている。

1 核磁気共鳴スペクトル測定法の原理

NMR(核磁気共鳴)スペクトル測定法は、静磁場に置かれた物質の構成原子核がその核に特有の周波数のラジオ波に共鳴して低エネルギーの核スピン状態から高エネルギーの核スピン状態に遷移することに伴ってラジオ波を吸収する現象を利用したスペクトル測定法である。

1)ゼーマン分裂

スピン量子数Iをもつ原子核に外部磁場を加えると(2I+1)個のエネルギー準位に分裂する。この現象をゼーマン分裂という。

例)核スピン量子数(I)が1/2となる原子核に外部磁場を加える場合
外部磁場と磁気モーメントの相互作用によりエネルギー準位が(2×1/2+1=2)2つに分裂する。

外部磁場を加えて、エネルギー準位が2つに分裂する原子核は、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定法で観測することができる。そのため、核スピン量子数Iが1/2(1H、13C、15N、19F、31P)の原子核は、NMRスペクトルを得ることができる。

2)核磁気共鳴

核スピン量子数(I)が1/2となる原子核に外部磁場を加えると、外部磁場と磁気モーメントの相互作用によりエネルギー準位が2つに分裂する。そこにラジオ波を照射すると、磁気モーメントが外部磁場と同じ方向をもつもの(低エネルギー状態)が磁気モーメントが外部磁場と反対の方向をもつもの(低エネルギー状態)に遷移する。この現象を核磁気共鳴という。

2 1H核磁気共鳴スペクトル法より得られる情報

核磁気共鳴スペクトル法より得られる情報については、アセトフェネチジンを例に確認していく。次にアセトフェネチジンの構造およびそのスペクトルを示す。

① 化学シフト値
NMRスペクトルの横軸には化学シフト値が用いられおり、1Hの結合する原子、分子により異なる化学シフト値にシグナルが現れる。

<参考:基準物質>
 化学シフトの基準物質は、以下の条件を満たすものを用いる。
・測定溶媒によく溶ける
・観測したいシグナルと重ならない
・化学的に不活性である
・少量の添加でも鋭いシグナルを得ることができる
上記の条件を満たすものとして、1H–NMR測定法では、テトラメチルシラン(TMS)が用いられる。

② 積分値
1H−NMR法では、通常の条件で測定した場合、化学シフトによらず、ほとんどのプロトンは同じ感度で測定することができる。このことから、1H−NMRのシグナルの面積比は、そのシグナルをもとになっているプロトンの個数の比を表すことになる。シグナル面積は、積分することで得られることから、積分値で表され、スペクトル上では、曲線(積分曲線)で表される。

積分曲線の高さは、そのシグナルの積分値を表しており、それらの積分値の比はシグナル間の面積比を示している。このことから、積分曲線の比より、プロトンの個数の比を確認することができる。

プロパノールには、同じ環境(電子密度)にある1Hが4種類あることから、スペクトル上には4種類のシグナルが現れる。また、それぞれの1Hの数から、それぞれのシグナル強度は、a:b:c:d=3:2:2:1となる。

③ スピンースピン結合によるスペクトルの分裂(カップリング)
化学結合を通じて核スピン間で働く磁気相互作用をスピン−スピン結合という。スピン−スピン結合が認められる場合、シグナルは分裂する。そのシグナル分裂をカップリングという。

<参考:重水の添加>
酸素、窒素に結合するプロトンは、少量の重水を加えると、重水素2Hと置換し、シグナルが消失または移動する。このことを利用して、酸素や窒素に直接結合するプトロンを確認することができる。

1)化学シフトと磁気遮へい効果

(1)化学シフト
 同種の原子核でも分子の中でおかれている環境の違いにより、その共鳴周波数がわずかに異なる。例えば、アセトフェネジンのdとfの1Hでは共鳴周波数が異なる。この現象は化学シフトとよばれ、実験的には、試料中の共鳴周波数νsとTMS(テトラメチルシラン)などの基準物質の共鳴周波数νrとのずれに基づいて、ppm(化学シフト値)で表される。

化学シフト値は核磁気共鳴スペクトルの横軸として用いられる値であり、基準物質(テトラメチルシランTMS)を0として、左方向が正の値となる。低磁場側では化学シフト値は大きく、高磁場側では化学シフト値は小さい。

(2)化学シフトに影響する因子

① 誘起効果
 プロトンの周囲の電子雲は、外部磁場に対して遮蔽効果をもたらす。そのため、化学結合を介してプロトンの周りの電子を引っ張るような置換基があれば、遮蔽効果は小さくなる。この効果を誘起効果という。

<誘起効果と化学シフト値>
・電気陰性度が高い原子が隣接していると、核の周りの電子密度が減少し遮へい効果が小さくなるので低磁場側(化学シフト値が大きい方向)にシグナルがシフトする。

② 磁気異方性効果
 磁気異方性効果とは、分子内にπ電子(芳香環、二重結合、三重結合)が存在すると、外部磁場により、π電子が環電流を生じて、局所的に誘起磁場が発生し、近傍の原子核の共鳴周波数に影響を与える現象である。

磁気異方性効果は空間を介して作用するため、官能基とプロトンの位置により遮蔽の程度を弱めることもあれば強めることもある。

2)スピン−スピン結合

スペクトルで表されるシグナルは、近くに存在するプロトンにより作られる磁場の影響を受け、分裂して現れる。このシグナルの分裂間隔をスピン−スピン結合定数といい、その単位はHzで表す。この値は外部磁場の影響を受けず、常に一定となる。
一般に隣に等価なプロトンが n 個存在するとシグナルは(n+1)本に分裂する(この分裂することをカップリングという)。

隣接する炭素に結合するプロトンの数によりa、b、c、dのシグナルは、下記に示すようにカップリングする。
a:隣接する炭素に2つのプロトンが結合しているため、トリプレット(三重線)となる。
b:隣接する炭素に5つのプロトンが結合しているため、マルチプレット(多重線)となる。
c:隣接する炭素に3つのプロトンが結合しているため、カルテット(四重線)となる。
d:隣接する炭素に2つのプロトンが結合しているため、トリプレット(三重線)となる。

関連問題
第97回問108、第98回問110、第99回問110、第100回問108
第101回問108、第102回問99、第102回問108、第103回問107
第104回問106

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