抗悪性腫瘍薬
抗悪性腫瘍薬(抗がん剤)には、化学療法薬として、代謝拮抗薬、アルキル化薬、白金製剤、抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管阻害薬がある。
●細胞増殖過程と化学療法薬の作用点
化学療法薬は、特定の周期にある細胞だけに効果を示す細胞周期特異性薬とどの周期にある細胞にも効果を示す細胞周期非特異性薬がある。代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管阻害薬は細胞周期特異性薬に該当し、白金製剤、アルキル化薬、抗腫瘍性抗生物質は、細胞周期非特異性薬に該当する。
●細胞周期(増殖サイクル)
●細胞周期特異性薬の作用点
代謝拮抗薬:S期 トポイソメラーゼ阻害薬:S期、G2期 微小管阻害薬:M期
一般に、細胞周期特異性薬は、効果が時間に依存する時間依存性薬であり、細胞周囲非特異性薬は効果が濃度に依存する濃度依存性薬である。
1 代謝拮抗薬
代謝拮抗薬には、葉酸代謝拮抗薬、ピリミジン代謝拮抗薬、プリン代謝拮抗薬があり、生理的基質に拮抗し、代謝を阻害することで抗悪性腫瘍作用を示す。
1)葉酸代謝拮抗薬
① メトトレキサート
・ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害し、テトラヒドロ葉酸の合成を抑制することによりチミジル酸合成酵素を阻害する。
・代謝拮抗作用を示すため、主に細胞周期のS期を阻害する。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
・解毒薬として、テトラヒドロ葉酸誘導体であるホリナートが用いられる。
◇適応症◇
急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病 など
◇副作用◇
骨髄抑制、間質性肺炎、感染症、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死融解症、ショック、アナフィラキシー様症状 など
2)ピリミジン代謝拮抗薬
ヌクレオチドの塩基には、ピリミジン塩基(チミン、シトシン、ウラシル)とプリン塩基(アデニン、グアニン)がある。ピリミジン拮抗薬には、フッ化ピリミジン系薬、シチジン系(シタラビン類)があり、ピリミジン代謝を阻害し、DNA合成を抑制する作用を有する。
(1)フッ化ピリミジン系
① フルオロウラシル(5−Fu) ② ドキシフルリジン
③ テガフール ④ カペシタビン
ウラシルに類似した構造を有しており、生理的なウラシル代謝経路でFdUMP(フルオロデオキシウリジン一リン)となり、チミジル酸合成酵素を阻害する。
・代謝拮抗作用を示すため、主に細胞周期のS期を阻害する。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
・レボホリナートカルシウム、ホリナートカルシウムと併用することにより、FdUMPとチミジル酸合成酵素の結合が強くなり、抗腫瘍効果が増強する。
・テガフール、ドキシフルリジンは、体内で活性代謝物であるフルオロウラシルとなり、抗腫瘍効果を発現する。
・カペシタビンは、ドキシフルリジンのプロドラッグであり、ガン組織内に多く存在するチミジンホスホリラーゼにより活性体となり5–Fuに変換されることから、選択的にガン組織の5–Fu濃度を上昇させることができる。
◇適応症◇
・フルオロウラシル;食道がん、胃がん、大腸がん、膵がん、乳がん、子宮頸がん
・ドキシフルリジン;胃がん、結腸・直腸がん、乳がん、子宮頸がん、膀胱がん
・テガフール;肺がん、胃がん、大腸がん、胆道がん、乳がん
・カペシタビン;胃がん、大腸がん、乳がん
◇副作用◇
脱水症状(激しい下痢)、口内炎、悪心・嘔吐、骨髄抑制、間質性肺炎、手足症候群 など
④ テガフール・ウラシル配合剤
・ウラシルは、5–Fuの代謝に関わるジヒドロピリミジン脱水素酵素を阻害するため、5–Fuの作用を増強するとともに作用時間が長くする。
⑤ テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤
・ギメラシルは、5–Fuの代謝に関わるジヒドロピリミジン脱水素酵素を阻害するため、5–Fuの作用を増強するとともに作用時間を長くする。
・オテラシルは、オロテートホスホリボシルトランスフェラーゼを選択的に阻害するため、腸管内で5–Fuの活性化を抑制し、5–Fuによる消化器症状を軽減する。
(2)シチジン系(シタラビン類)
① シタラビン(シトシンアラビノシド、Ara−C)
② シタラビン オクホスファート水和物※シタラビンのプロドラッグ
③ ゲムシタビン(dFdC)
・デオキシシチンジン三リン酸(dCTP)と競合し、DNA鎖に取り込まれることでDNA合成を阻害する。
・代謝拮抗作用を示すため、主に細胞周期のS期を阻害する。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
◇適応症◇
・シタラビン;白血病、消化器がん
・ゲムシタビン;肺がん、胆道がん、膵がん、卵巣がん
◇副作用◇
肝機能障害、白質脳症、骨髄抑制 など
3)プリン代謝拮抗薬
ヌクレオチドの塩基には、ピリミジン塩基(チミン、シトシン、ウラシル)とプリン塩基(アデニン、グアニン)がある。プリン拮抗薬は、プリン代謝を阻害し、DNA合成を抑制する作用を有する。
① メルカプトプリン
・体内でチオイノシン酸となり、イノシン酸からのアデニン一リン酸(AMP)、グアニン一リン酸(GMP)の産生を抑制することによりDNAの合成を抑制する。
・代謝拮抗作用を示すため、主に細胞周期のS期を阻害する。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
◇適応症◇
白血病
◇副作用◇
悪心・嘔吐、骨髄抑制、肝機能障害 など
2 アルキル化薬
アルキル化薬とは、構造中のアルキル基によりDNAをアルキル化する薬のことである。DNAがアルキル化されると複製・転写が阻害される。
1)ナイトロジェンマスタード類
① シクロホスファミド ② イホスファミド
・CYPにより活性体となり、DNAをアルキル化することで抗腫瘍効果を示す。
・細胞周期非依存性。
・効果が濃度に依存する(濃度依存性薬)。
・代謝産物であるアクロレインにより出血性膀胱炎を誘発することがある。
(解毒薬としてメスナが用いられる)
◇適応症◇
シクロホスファミド
白血病、悪性リンパ腫、乳がん、卵巣がん、子宮体がん、悪性骨腫瘍、肺がん など
イホスファミド
肺がん、前立腺がん、子宮頸がん、悪性リンパ腫、悪性骨・軟部腫瘍(肉腫) など
◇副作用◇
出血性膀胱炎、骨髄抑制、悪心・嘔吐、間質性肺炎 など
2)スルホン酸アルキル類
① ブスルファン
・DNA、リン脂質、タンパク質をアルキル化することで抗腫瘍効果を示す。
・細胞周期非依存性。
・効果が濃度に依存する(濃度依存性薬)。
◇適応症◇
慢性骨髄性白血病
◇副作用◇
悪心・嘔吐、下痢、間質性肺炎 など
3)ニトロソウレア類
① ニムスチン ② ラニムスチン
・DNAをアルキル化することで抗腫瘍効果を示す。
・尿素にニトロソ基が結合した構造を有しており、脂溶性が高く血液脳関門を通過しやすいため、脳腫瘍に用いられる。
・細胞周期非依存性。
・効果が濃度に依存する(濃度依存性薬)。
◇副作用◇
骨髄抑制、悪心・嘔吐 など
3 白金製剤
① シスプラチン
・DNAに結合し、DNAの複製、転写を阻害することで、抗腫瘍効果を示す。
・細胞周期非依存性。
・効果が濃度に依存する(濃度依存性薬)。
・放射線増感作用があり、放射線療法と併用して用いられることが多い。
・悪心・嘔吐のリスクが高いため、投与する際には、制吐薬の予防的投与(NK1受容体拮抗薬+5–HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用療法)を行う。
・腎障害を予防する目的で、投与前後に十分な輸液を投与する。
・排泄経路:腎排泄
◇適応症◇
肺がん、食道がん、胃がん、胆道がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、膀胱がん、精巣腫瘍、悪性骨腫瘍、頭頸部がん など
◇副作用◇
悪心・嘔吐、腎障害、末梢神経障害、難聴・内耳障害、骨髄抑制 など
② カルボプラチン
・DNAに結合し、DNAの複製、転写を阻害することで、抗腫瘍効果を示す。
・細胞周期非依存性。
・効果が濃度に依存する(濃度依存性薬)。
・シスプラチンのように投与前後に輸液の大量投与を必要としない。
・投与量の設定に、カルバートの式が用いられる。
・排泄経路:腎排泄
・他の白金製剤に比べ、骨髄抑制が現れやすい。
◇適応症◇
肺がん、子宮頸がん、卵巣がん、精巣腫瘍 など
◇副作用◇
悪心・嘔吐、骨髄抑制 など
③ オキサリプラチン
・DNAに結合し、DNAの複製、転写を阻害することで、抗腫瘍効果を示す。
・細胞周期非依存性。
・効果が濃度に依存する(濃度依存性薬)。
・フッ化ピリミジン系薬と高い相乗効果があり、フッ化ピリミジン系薬との併用療法(FOLFOX療法など)が大腸ガンに対する標準的な治療法として用いられている。
・他の白金製剤に比べ、末梢神経障害が現れやすい。
・排泄経路:腎排泄
◇適応症◇
大腸がん、膵がん、胃がん、小腸がん
◇副作用◇
末梢神経障害、悪心・嘔吐、骨髄抑制 など
4 抗腫瘍抗生物質
1)アントラサイクリン系
① ドキソルビシン ② エピルビシン ③ ダウノルビシン ④ イダルビシン
・DNAの間に入り込み(インターカレーション)、転写過程を阻害し、DNAポリメラーゼやDNA依存性RNAポリメラーゼを阻害することでDNA、RNA合成を阻害する。
・トポイソメラーゼⅡを阻害する。
・代謝過程でフリーラジカルとなり、活性酸素を生成する。
・細胞周期非依存性。
・効果が濃度に依存する(濃度依存性薬)。
・心毒性の発現を抑制する目的で総投与量が設定されている。
・血管外漏出に最も注意が必要である。
・血管外漏出時には、解毒薬としてデクスラゾキサンが用いられる。
◇適応症◇
ドキソルビシン;乳がん、子宮体がん、膀胱がん、悪性骨・軟部腫瘍、悪性リンパ腫 など
エピルビシン;白血病、悪性リンパ腫、卵巣がん、胃がん、乳がん など
ダウノルビシン、イダルビシン;白血病
◇副作用◇
骨髄抑制、悪心・嘔吐、食欲不振、脱毛、心筋障害 など
2)アントラサイクリン系以外の抗腫瘍抗生物質の作用
① ブレオマイシン
・鉄イオンとキレート形成し、活性酸素(フリーラジカル)を発生させ、非酵素的にDNA鎖を切断する。
◇副作用◇
肺線維症・間質性肺炎 など
② マイトマイシンC
・DNAをアルキル化することで抗腫瘍効果を示す。
③ アクチノマイシンD
・DNAの間に入り込み(インターカレーション)、DNA依存性RNAポリメラーゼを阻害する。
5 トポイソメラーゼ阻害薬
1)トポイソメラーゼⅠ阻害薬
・カルボキシルエステラーゼにより活性代謝物SN–38となり、トポイソメラーゼⅠを阻害し、DNA複製を停止することで抗腫瘍作用を示す。
・主に細胞周期のS期を阻害する。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
・消失経路:活性代謝物であるSN−38は、UGT1A1により代謝される。
・同様の作用を示すものにノギテカンが存在する。
・副作用として、コリン作動性による早発性下痢とSN−38の細胞毒性による遅発性下痢を誘発することがあり、遅発性の下痢には半夏瀉心湯が用いられることがある。
◇適応症◇
肺がん、胃がん、大腸がん、膵がん、卵巣がん、乳がん など
◇副作用◇
骨髄抑制、下痢、悪心・嘔吐、食欲不振、間質性肺炎 など
2)トポイソメラーゼⅡ阻害薬
① エトポシド
・トポイソメラーゼⅡを阻害し、切断された2本鎖DNAを蓄積することで抗腫瘍作用を示す。
・主にS期後半からG2期の感受性が高い。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
◇適応症◇
小細胞肺がん、悪性リンパ腫、子宮頸がん、卵巣がん など
◇副作用◇
骨髄抑制、間質性肺炎、悪心・嘔吐、口内炎 など
6 微小管阻害薬
1)タキサン系
① パクリタキセル ② ドセタキセル
・西洋イチイの抽出物より得たタキソイド系化合物
・チュブリンの脱重合を阻害(チュブリンの重合を促進)し、微小管を安定化させ、紡錘糸機能を障害することで細胞分裂を停止させアポトーシスを誘発する。
・M期特異的。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
◇適応症◇
パクリタキセル
肺がん、食道がん、胃がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がん、精巣腫瘍、軟部腫瘍
ドセタキセル
肺がん、食道がん、胃がん、乳がん、卵巣がん、頭頸部がん、前立腺がん
◇副作用◇
骨髄抑制、末梢神経障害、脱毛、関節痛・筋肉痛(パクリタキセル) など
2)ビンカアルカロイド系
① ビンクリスチン ② ビンブラスチン
・キョウチクトウ科のニチニチ草に含まれるアルカロイド
・チュブリンの重合を阻害し、微小管を崩壊させ、紡錘糸機能を障害することで細胞分裂を停止させアポトーシスを誘発する。
・M期特異的。
・効果が時間に依存する(時間依存性薬)。
◇適応症◇
ビンクリスチン;白血病、悪性リンパ腫、褐色性細胞腫 など
ビンブラスチン;尿路上皮がん、悪性リンパ腫 など
◇副作用◇
末梢神経障害、骨髄抑制 など
7 ホルモン療法薬
1)抗エストロゲン薬
① タモキシフェン ② トレミフェン ③ フルベストラント
・主に乳腺での抗エストロゲン作用を示す。
・タモキシフェンは、子宮内膜のエストロゲン受容体を刺激作用により子宮体癌、子宮肉腫を起こすことがある。
◇適応症◇
タモキシフェン
乳がん
トレミフェン
閉経後乳がん
フルベストラント
乳がん(閉経前の乳がんでは、LH–RHアゴニスト下でCDK4/6阻害薬と併用)
◇副作用◇
血栓症、肝障害、白血球減少
2)エストロゲン合成阻害薬
① アナストロゾール ② レトロゾール ③ エキセメスタン
・エストロゲンの合成に関わるアロマターゼを阻害し、アンドロゲンからエストロゲンの合成を阻害する。
◇適応症◇
閉経後乳癌
◇副作用◇
ほてり、肝障害、骨粗鬆症
3)抗アンドロゲン薬
① クロルマジノン酢酸エステル
・構造中にステロイド骨格を有する。
・選択的に前立腺に取り込まれ、前立腺細胞のアンドロゲン受容体を競合的に阻害する。
◇適応症◇
前立腺癌
② フルタミド ③ ビカルタミド ④ エンザルタミド
・前立腺細胞のアンドロゲン受容体を阻害する。
◇適応症◇
前立腺癌
◇副作用◇
肝障害
⑤ アビラテロン
・アンドロゲン合成酵素であるCYP17の活性を阻害し、テストステロン、ジヒドロテストステロンの濃度を低下させる。
◇適応症◇
去勢抵抗性前立腺癌 など
◇副作用◇
心障害、肝障害、低カリウム血症、高脂血症、高血圧、ほてり、体重増加 など
4)卵胞ホルモン製剤
① エチニルエストラジオール
・ゴナドトロピン機能を抑制し、精巣間質細胞からのテストステロンの分泌を抑制する。
◇適応症◇
エチニルエストラジオール
前立腺癌、閉経後の末期乳がん
5)黄体ホルモン製剤
① メドロキシプロゲステロン酢酸エステル
・下垂体、性腺系への抑制作用及び抗エストロゲン作用などにより抗腫瘍作用を示す。
◇適応症◇
乳がん、子宮体がん(内膜がん)
6)LH–RH誘導体
① ゴセレリン ② リュープロレリン
・持続的にGnRH受容体を刺激し、GnRH受容体のダウンレギュレーションを誘発することでLH・FSHの分泌を抑制する。
・性ホルモンの分泌を抑制する。
◇適応症◇
前立腺癌、閉経前乳癌
7)GnRH受容体アンタゴニスト
① デガレリクス
・内因性GnRHに拮抗することでLH・FSHの分泌を抑制する。
・性ホルモンの分泌を抑制する。
◇適応症◇
前立腺癌
8 分子標的薬
分子標的薬は、核酸(DNA、RNA)の合成、利用、細胞分裂を阻害する化学療法薬と異なり、細胞分裂に必要な刺激・シグナル伝達を阻害し、細胞増殖を抑制する。
1)EGFR阻害薬
(1)抗EGFR抗体薬
① セツキシマブ ② パニツムマブ
・内因性EGFRリガンドのEGFRへの結合を阻害し、EGFRの2量体化を阻害することで細胞増殖、細胞生存、細胞運動、腫瘍内血管新生など腫瘍増殖・転移に関する多くの細胞機能を抑制する。
・RAS遺伝子野生型に用いられる(変異型では無効)。
◇適応症◇
セツキシマブ;EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん
パニツムマブ;KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん
◇副作用◇
皮膚障害、インフュージョンリアクション、間質性肺炎、下痢 など
(2)EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
① ゲフィチニブ ② エルロチニブ ③ アファチニブ
・EGFRのATP結合部位に結合し、チロシンキナーゼの活性を阻害することで細胞増殖抑制、アポトーシスを誘導する。
◇適応症◇
ゲフィチニブ
EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺がん
エルロチニブ
EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性で、がん化学療法未治療の非小細胞肺がん
治癒切除不能な膵がん など
アファチニブ
EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺がん
◇副作用◇
皮膚障害、下痢、肝障害、間質性肺炎 など
2)HER2阻害薬
(1)抗HER2抗体薬
① トラスツズマブ ② ペルツズマブ
・HER2に結合し、2量体化を阻害することで受容体の活性化を阻害する。
◇適応症◇
トラスツズマブ
HER2過剰発現が確認された乳がん
HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃がん
ペルツズマブ
HER2陽性の乳がん
◇副作用◇
インフュージョンリアクション、心毒性、間質性肺炎 など
(2)HER2チロシンキナーゼ阻害薬
① ラパチニブ
・HER2のATP結合部位に結合し、チロシンキナーゼの活性を阻害することで細胞増殖抑制、アポトーシスを誘導する。
◇適応症◇
HER2過剰発現が確認された手術不能又は再発乳がん
◇副作用◇
皮膚障害、下痢、肝障害、心毒性 など
3)血管新生阻害薬
(1)抗VEGF抗体薬
① ベバシズマブ
・VEGFに結合し、VEGFの受容体への結合を阻害することで、血管新生を抑制する。
◇適応症◇
治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん
扁平上皮がんを除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
手術不能又は再発乳がん
卵巣がん など
◇副作用◇
高血圧、出血、血栓塞栓症、消化管穿孔、創傷治癒遅延、インフュージョンリアクション など
(2)抗VEGFR抗体薬
① ラムシルマブ
・VEGFR–2に結合し、VEGF–A、VEGF−C、VEGF–DのVEGFR–2への結合を阻害することで、血管新生を抑制する。
◇適応症◇
治癒切除不能な進行・再発の胃がん、直腸がん
切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
◇副作用◇
高血圧、出血、血栓塞栓症、消化管穿孔、創傷治癒遅延、インフュージョンリアクション など
(3)VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(多標的阻害薬)
① ソラフェニブ ② スニチニブ ③ パゾパニブ ④ レゴラフェニブ
・血管内皮細胞のVEGFRを阻害し、血管新生を阻害する。
・がん細胞の様々なチロシンキナーゼを阻害し、腫瘍細胞の増殖を抑制するとともにアポトーシスを誘導する。
◇適応症◇
ソラフェニブ
根治切除不能又は転移性の腎細胞がん、切除不能な肝細胞がん、根治切除不能な甲状腺がん
スニチニブ
イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍、根治切除不能又は転移性の腎細胞がん、膵神経内分泌腫瘍
パゾパニブ
悪性軟部腫瘍、根治切除不能な転移性の腎細胞がん
レゴラフェニブ
治療切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん、癌化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞がん
化学療法(イマチニブ及びスニチニブ)後に増悪した消化管間質腫瘍
◇副作用◇
高血圧、出血、手足症候群、下痢、肝機能障害 など
4)非受容体型チロシンキナーゼ阻害薬
●第二世代
② ニロチニブ ③ ダサチニブ
・BCR−ABLチロシンキナーゼを阻害し、腫瘍細胞の増殖を抑制するとともにアポトーシスを誘導する。
・KITなどのチロシンキナーゼ阻害作用を有する。
◇適応症◇
イマチニブ
慢性骨髄性白血病(CML)
フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病(ALL)
消化管間質腫瘍
ニロチニブ;慢性骨髄性白血病(CML)
ダサチニブ;慢性骨髄性白血病(CML)、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病(ALL)
◇副作用◇
皮膚障害、悪心・嘔吐、骨髄抑制、肝障害、体液貯留 など
(2)ALK阻害薬
① クリゾチニブ ② アレクチニブ
・EML4–ALK融合タンパク質などの異常活性化したALKのチロシンキナーゼ活性を阻害する作用を有する。
・ALKチロシンキナーゼを阻害し、腫瘍細胞の増殖を抑制するとともにアポトーシスを誘導する。
・ALK融合遺伝子陽性例で有効
◇適応症◇
クリゾチニブ
ALK融合遺伝子又はROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
アレクチニブ
ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
◇副作用◇
悪心、肝障害、間質性肺炎、味覚障害 など
5)セリン・スレオニンキナーゼ阻害薬
① テムシロリムス ② エベロリムス
・イムノフィリンのFKBPに結合し、mTORを阻害することで細胞増殖を抑制する。
・がん細胞のVEGF産生を抑制し、血管新生を抑制する。
◇適応症◇
テムシロリムス
根治切除不能又は転移性の腎細胞がん
エベロニムス
根治切除不能・転移性の腎細胞がん
手術不能又は再発乳がん など
◇副作用◇
脂質代謝異常、免疫抑制、間質性肺炎、口内炎、高血糖 など
6)サイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害薬)
① パルボシクリブ ② アベマシクリブ
・細胞分裂の制御を不能にしているサイクリン依存性キナーゼ(CDK)を阻害することで抗腫瘍効果を示す。
◇適応症◇
パルボシクリブ
手術不能又は再発乳がん
アベマシクリブ
ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん
◇副作用◇
骨髄抑制、肝障害、脱毛症 など
7)プロテアソーム阻害薬
・がん細胞におけるプロテアソームを阻害することにより、がん細胞の増殖を抑制するとともにアポトーシスを誘導する。
・NF−κBを阻害することにより、サイトカイン(IL–6など)の分泌を阻害し、骨髄腫細胞の増殖を抑制する。
◇適応症◇
多発性骨髄腫、マントル細胞リンパ腫 など
8)細胞表面抗原に対する抗体薬
① リツキシマブ
・B細胞表面に発現しているCD20抗原に結合し、抗体依存性細胞障害、補体依存性細胞障害を示す。
◇適応症◇
CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫
◇副作用◇
免疫抑制、インフュージョンリアクション、腫瘍崩壊症候群 など
9)抗RANKL抗体薬
① デノスマブ
・RANKLに特異的に結合し、RANKLのRANKへの結合を阻害することで破骨細胞の分化・増殖を抑制する。
・重篤な低カルシウム血症を防止する目的で、投与中は、沈降炭酸カルシルム・コレカルシフェロール、炭酸マグネシウムを併用する。
◇適応症◇
多発性骨髄腫の骨病変及び固形癌骨転移による骨病変、骨巨細胞腫
◇副作用◇
低カルシウム血症、顎骨壊死 など
9 免疫チェックポイント阻害薬
通常、生体内ではがん細胞が発生しているが、免疫機構により排除されるため、 がんを発症することはない。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫抑制機構を阻害し、がん細胞に対する免疫反応を高めることにより抗腫瘍効果を示す。
1)抗PD-1抗体薬
① ニボルマブ ② ペムブロリズマブ
・PD–1に結合することにより、PD–1とPD−L1/PD−L2の結合を阻害する。
・がん細胞によりT細胞の活性は抑制されず、免疫反応が持続する。
◇適応症◇
ニボルマブ
悪性黒色腫、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、
再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫 など
ペムブロリズマブ
根治切除不能な悪性黒色腫、PD–L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
◇副作用◇
インフュージョンリアクション、1型糖尿病、下痢、腸炎、肝障害、薬剤性肺炎、神経障害、重症筋無力症、甲状腺機能障害、副腎不全 など
2)抗PD-L1抗体薬
① アベルマブ ② アテゾリズマブ ③ デュルバルマブ
・PD–L1に結合することにより、PD–1とPD−L1の結合を阻害する。
・がん細胞によりT細胞の活性は抑制されず、免疫反応が持続する。
◇適応症◇
アベルマブ;切除不能なメルケル細胞がん
アテゾリズマブ;切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
デュルバルマブ
切除不能な局所進行の非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法
◇副作用◇
インフュージョンリアクション、1型糖尿病、下痢、腸炎、肝障害、薬剤性肺炎、神経障害、重症筋無力症、甲状腺機能障害、副腎不全 など
3)抗CTLA–4抗体薬
① イピリムマブ
・CTLA–4(細胞障害性Tリンパ球抗原4)に結合することにより、抗原提示細胞のCD80/86と活性化T細胞のCTLA−4の結合を阻害する。
・T細胞の活性化が抑制されず、がん細胞に対する免疫反応が持続する。
◇適応症◇
根治切除不能な悪性黒色腫、根治切除不能又は転移性の腎細胞がん
◇副作用◇
インフュージョンリアクション、1型糖尿病、下痢、腸炎、肝障害、薬剤性肺炎、神経障害、重症筋無力症、甲状腺機能障害、副腎不全 など
10 その他の抗悪性腫瘍薬
① L−アスパラキナーゼ
・L–アスパラギン酸を加水分解することで、アスパラギン酸要求性腫瘍細胞を栄養欠乏状態にすることで抗腫瘍効果を発現する。
◇適応症◇
急性白血病、悪性リンパ腫
◇副作用◇
ショック、急性膵炎、重篤な凝固異常、脳症、意識障害をともなう高アンモニア血症 など
② トレチノイン
・ビタミンA活性代謝産物で白血病前骨髄球の分化誘導作用により、増殖抑制効果を発揮する。
◇適応症◇
急性前骨髄性白血病
◇副作用◇
ショック、急性膵炎、重篤な凝固異常、脳症、意識障害をともなう高アンモニア血症 など
◇関連問題◇
第97回問40、第97回問264〜265、第98回問40、第99回問40、第99回問165、第99回問262〜263、第100回問165、第101回問165、第102回問40、第102回問260〜261、第103回問163、第105回問40