薬剤師国家試験出題項目

希薄溶液の束一的性質

1 理想溶液

理想溶液とは、同種分子間力と異種分子間力が等しいと仮定した溶液のことであり、濃度に関わらずラウールの法則が成立する。

<理想溶液について>
A、Bの二成分系の理想溶液では、A−A、B−Bの同種分子間力、A−Bの異種分子間力のそれぞれが等しい。

<ラウールの法則>
ラウールの法則とは、成分iの蒸気の分圧piと純粋成分の蒸気圧pi及び溶質のモル分率xiとの間に下記の式が成立するとした法則のことである。
pi=xi・pi
揮発性の2成分A、Bからなる理想溶液の成分の蒸気圧は、以下のように表される。
pA=xA・pA(pA:Aの蒸気分圧、xA:Aのモル分率、pA:純物質Aの蒸気圧)
pB=xB・pB(pB:Bの蒸気分圧、xB:Bのモル分率、pB:純物質Bの蒸気圧)

また、ラウールの法則に従う蒸気圧−組成図は以下のようになる。

赤線は、Aの蒸気分圧(pA=xA・pA
青線は、Bの蒸気分圧(pB=xB・pB
紫線は、全圧(p=pA+pB


 2 実在の希薄溶液

 溶質と溶媒の性質が似ている場合、希薄溶液では、溶媒の蒸気圧はラウールの法則に従う。一方、溶質と溶媒の性質が異なる場合、それぞれの蒸気圧はラウールの法則に従わないため、理想溶液の示す蒸気圧との間にずれが生じる。溶質と溶媒の性質が異なる場合における実在溶液の蒸気圧については、以下の2通りに分けられる。

A−AあるいはB−B同種分子間力に比べ、A−B異種分子間力が強い場合、蒸気圧は理想溶液よりも小さくなり「負のずれ」を示す。また、A−AあるいはB−B同種分子間力に比べ、A−B異種分子間力が弱い場合、蒸気圧は理想溶液よりも大きくなり「正のずれ」を示す。

<異種分子間相互作用と蒸気圧の関係>
・異種分子間力=同種分子間力の場合
実在溶液の蒸気圧は、理想溶液の蒸気圧と同じ値を示す。

・異種分子間力>同種分子間力の場合
実在溶液の蒸気圧は、理想溶液の蒸気圧よりも小さい値を示す(負のずれ)。

・異種分子間力<同種分子間力の場合
実在溶液の蒸気圧は、理想溶液の蒸気圧よりも大きい値を示す(正のずれ)。


 3 溶液の束一的性質

 不揮発性溶質が溶解している希薄溶液において、溶質の種類には無関係に溶質の粒子数のみに依存する溶液の性質を束一的性質という。束一的性質については、溶質が存在することにより溶媒の化学ポテンシャルが減少することから生じる。束一的性質を示す溶液の物理的性質には、蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下、浸透圧増大がある。

凝固点降下および沸点上昇については、化学ポテンシャルと温度の関係より確認することができる。

上図において、純溶媒に比べ溶液における溶媒では、化学ポテンシャルが低下しており、溶液の溶媒では、凝固点降下および沸点上昇が起こっていることが明確である。

1)蒸気圧降下

ラウールの法則によると、溶媒Aに不揮発性の溶質Bを溶解すると、溶媒Aの蒸気圧は降下する。これにより融解曲線は左へ、蒸気圧曲線は右へシフトし、凝固点降下および沸点上昇が認められる。

黒線は水のみの融解曲線、蒸気圧曲線、昇華曲線を表しており、青線は水溶液を調製した際の融解曲線、蒸気圧曲線を示している。水溶液を調製すると、蒸気圧降下が認められるため、水のみの蒸気圧曲線(黒線)に比べ、水溶液を調製した際の融解曲線は左へ、蒸気圧曲線は右へ移行する。
希薄溶液(理想溶液)における蒸気圧降下度(蒸気圧がどれぐらい降下したか:Δp)については、以下の式で表される。

Δp=pA・xB

ただし、pAは溶媒Aの蒸気圧、xBは溶質のモル分率であり、希薄溶液(理想溶液)における蒸気圧降下度は溶質のモル分率に比例して降下する。

2) 沸点上昇

溶媒を沸騰させるためには、蒸気圧を外気圧と同じになるように温度を上昇させる必要がある。ラウールの法則によると、溶媒Aに溶質Bを溶解すると、溶媒Aの蒸気圧は降下することから、溶液を沸騰させるためには、純溶媒を沸騰させる温度(Tb)よりも高い温度にする必要がある(Tb+ΔTb)。
ΔTbは、沸点上昇度といわれ、下記の式で表される。

ΔTb=Kb・mB

 ただし、Kbは沸点上昇定数(モル沸点上昇定数)、mBは溶質Bの質量(容量)モル濃度とする。沸点上昇定数Kbは溶媒(物質)固有の定数であることから、上記の式より、沸点上昇度は、溶質Bのモル濃度に比例し、溶質の種類には無関係である。

3) 凝固点降下

溶液を冷却すると、純溶媒に比べ低い温度で凝固する。このことから、溶液を調製すると、凝固点降下が認められる。凝固点降下については、沸点上昇と同様に凝固点降下度ΔTfをもとに考える。
ΔTfは、下記の式で表される。

ΔTf=Kf・mB

 ただし、Kfは凝固点降下定数(モル凝固点降下定数)、mBは溶質Bの質量(容量)モル濃度とする。凝固点降下定数Kfは溶媒(物質)固有の定数であることから、上記の式より、凝固点降下度は、溶質Bのモル濃度に比例し、溶質の種類には無関係である。

4)浸透圧増大

浸透現象とは、半透膜を通じて溶媒のみが移行する現象のことであり、溶液中の溶媒分子の化学ポテンシャルが純溶媒の化学ポテンシャルよりも小さいことから生じる。下記の装置のように半透膜を隔てて、溶液と純溶媒をおくと、純溶媒から溶液側へ溶媒が移行する。浸透圧は溶液と純溶媒との高低差から生じる静水圧の差、または、溶液へ溶媒が移行しないように溶液側に加える圧力Πのことである。

浸透圧は、以下の式より表される。
Π=cRT
ただし、Rは気体定数、Tは熱力学的温度、cは溶質のモル濃度とする。
浸透圧は、溶質の種類によらず、溶質のモル濃度、温度に依存する物理量である。


4  非電解質溶液、電解質溶液における束一的性質

 束一的性質については、溶液中の粒子の量に依存する性質であり、溶液中の粒子の濃度より、蒸気圧降下度、沸点上昇度、凝固点降下度、浸透圧を算出することができる。
溶液中の粒子の量についてはオスモルといわれ、その濃度をオスモル濃度という。オスモル濃度については、非電解質と電解質では、算出の方法が異なる。

<非電解質の場合>
溶液中で解離反応が認めれられないため、溶液のモル濃度とオスモル濃度は同一の値を示す。
例)0.1 mol/Lブドウ糖のオスモル濃度について
ブドウ糖は解離しないため、溶液のモル濃度とオスモル濃度は等しくなる。
よって、0.1 mol/Lブドウ糖のオスモル濃度は、0.1 Osm/Lとなる。

<電解質の場合>
溶液中で解離反応が認められるため、溶液のモル濃度とオスモル濃度は異なる値を示す。
例)0.1 mol/L NaClのオスモル濃度について(ただし、NaClが完全解離すると仮定)
NaClは完全に解離し、1L溶液中では、0.1 mol Naと0.1 mol Clが存在することから、そのオスモル濃度は、0.2 Osm/Lとなる。

上記より、オスモル濃度を考えるにあたって非電解質の場合、解離のことを考慮する必要はないが、電解質の場合、解離のことを考慮する必要がある。電解質におけるオスモル濃度を求めるにあたっては、ファントホッフ係数iという数値を用いて以下のように計算することができる。

オスモル濃度=i×溶液のモル濃度

なお、ファントホッフ係数iについては、解離してできるイオンの数nおよび解離度αより、以下の式より求めることができる。

i=1+(n-1)α

例)0.2 mol /LのMgCl2のオスモル濃度について(解離度:0.85と仮定)
①:ファントホッフ係数を求める
MgCl2は解離すると3つのイオンになることからn=3となり、ファントホッフ係数は以下のように計算できる。
ファントホッフ係数i=1+(n-1)α=1+(3-1)×0.85=2.7
②:オスモル濃度を求める
オスモル濃度=i×溶液のモル濃度=2.7×0.2 mol /L=0.54 Osm /L

参考:オスモル濃度の算出
オスモル濃度を求める際の手順を以下に示す。
①:電解質であるか、非電解質であるかを確認する。
②:非電解質の場合、溶質のモル濃度とオスモル濃度が同じになる。
③:電解質の場合、解離してできるイオンの数、解離度よりファントホッフ係数を求め、溶質のモル濃度からオスモル濃度を求める。

 


 5 等張溶液

 血液と同じ浸透圧(37℃において約7.7atm)を示す溶液を等張溶液という。等張溶液には、0.9%NaCl水溶液、5%ブドウ糖水溶液、10%ショ糖水溶液などがある。
等張溶液については、血液と浸透圧が同じであることから、末梢から注入する輸液として用いられている。

◇関連問題◇

第97回問1、第100回問93(①)、第101回問49
第101回問93、第102回問93 選択肢4

◇テキスト◇
希薄溶液の束一的性質 テキスト PDF

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