1 分配則
1−オクタノールと水を混合すると、上層は有機相(1−オクタノール相)、下層は水相に分離する。水相を十分に酸性にした後、酸性物質HAを添加すると、有機相中および水相中では、ともに分子形(HA)として存在する。有機相中のHAと水相中のHAをそれぞれ[HA]oil、[HA]waterとすると、その比(分配係数KD)は、下記のように表される。
上記の式は、物質が両相間において同一の化学種として存在する場合に成立する。KDは溶質に固有の値であり、有機相と水相の体積比に関係なく一定である。また、一般にKDは温度、圧力、有機溶媒の種類の影響を受け変化する。
2 分配比(見かけの分配係数)
水相中で物質が解離する場合には、有機相、水相中で物質は異なる化学種として分配するため、これらの化学種を含む各相の全物質の濃度比は、分配比(D)または見かけの分配係数として表される。
1) 一塩基性酸における分配比
一塩基性酸HAの分配比を考える際には、有機相中及び水相中における一塩基性酸HAの存在状態について確認する必要がある。
<有機相中での存在状態について>
一塩基性酸HAは、有機相中では、分子として存在している。
<水相中での存在状態について>
一塩基性酸HAは、水中では、下記のように解離する。
有機相中及び水相中での存在状態より、分配比Dは下記の式で表される。
上記の分配比の式に解離定数Kaを導入すると、Dは下記のように表される。
3 溶媒抽出
溶媒抽出とは、一方の液相に存在する物質を他方の液相に移動させるさせる操作のことである。
1)抽出率
抽出率とは、ある物質が水に溶解しているとき、これに水と混じり合わない有機溶媒を加え、平衡状態とした場合、水相から有機相に移行した物質の割合のことである。
抽出率については、有機溶媒の種類、無機塩(NaClなど)を添加により変化する。
<抽出率の変動要因>
・有機溶媒の種類
有機溶媒の脂溶性を増加させることにより、抽出率を高くすることができる。
・無機塩(NaClなど)を添加する
水に塩を添加すると、水相中に溶解している極性物質の溶解度が低下する(この効果を塩効果という。)ため、水に塩を添加すると、抽出率を高くすることができる。
<抽出効率を高める方法>
有機溶媒が同量存在する場合、抽出回数を増やすことにより、抽出効率を高くすることができる。
例)100mLのベンゼンがある場合、100mLで1回抽出するより、50mLで2回抽出した方が抽出率が高くなる。
◇関連問題◇
第98回 問94
第101回 問205