薬剤師国家試験出題項目

中和滴定

中和滴定とは、酸と塩基の中和反応を利用した容量分析法のことであり、水溶液中で行う場合(中和滴定)と、水以外の溶媒を用いて行う場合(非水滴定)がある。

 1 水溶液中における中和滴定

 中和滴定では、含量が不明な酸または塩基を含む試料溶液に、濃度が正確に求められている標準液を加えて、中和反応が完了するまでに要した標準液の消費量から、試料溶液中の酸または塩基の含量を求める。

1) 滴定曲線

 滴定曲線とは、被滴定液のpHと標準液の滴加量をプロットしたものであり、試料と標準液の種類により、さまざまな形を示す。

Ⅰ:強酸を強塩基で滴定する場合
例)0.1 mol/L HCl 10.0mL(pH:1)を0.1 moL/L NaOH(pH:13)で滴定する場合

・滴定開始前
pHは0.1 mol/L HClのpHと同一のpHを示す(pH=1.00)

・当量点
NaOHを滴加し、中和反応が終了した点(当量点)では、[H]=[OH]=1.00×10-7 mol/L となることから、そのとき試料溶液のpHは「7」となる。

・当量点後
さらにNaOHの滴加量が増えると、試料溶液のpHは0.1 moL/L NaOHのpHに近く。

Ⅱ:一塩基性酸を強塩基で滴定する場合
 例)0.1 mol/L HA 10.0mL(Ka:1.0×10-5、pH:3)を0.1 moL/L NaOH(pH:13)で滴定する場合

・滴定開始前
滴定開始前、pHは0.1 mol/L HAのpHと同一のpHを示す(pH=3.00)。

・当量点
NaOHを滴加し、中和反応が終了した点(当量点)では、pHは「8.85」となる。

・当量点後
さらにNaOHの滴加量が増えると、試料溶液のpHは0.1 moL/L NaOHのpHに近く。

なお、強塩基を強酸で滴定した場合は「Ⅲ」、一酸性塩基を強酸で滴定した場合は「Ⅳ」のようなプロットを示す。

2) 滴定終点検出法

 滴定終点とは、滴定操作により反応が完結したと認識される点のことであり、滴定終点の検出法には「指示薬法」と「電気的終点検出法」がある。

(1)指示薬法
中和滴定による指示薬法では、pHにより色調が変化する指示薬を用いて、滴定終点を検出する。以下の中和滴定で用いられる代表的な指示薬を示す(下表参照)。

指示薬の選択については、pHにより色調が変化することから、pHジャンプの範囲内に変色範囲がある指示薬を選択すると滴定終点を判別できる。

(2)電位差滴定法
 電位差滴定法では、指示電極としてガラス電極、参照電極として銀−塩化銀電極が用いられる。

3) 中和滴定で用いられる標準液

 標準液とは、滴定に用いられる濃度が規定された液体のことであり、試薬に標準液を滴加することにより、定量をすることが可能となる。
中和滴定において酸性医薬品を滴定する場合には、標準液として強塩基(1mol/L水酸化ナトリウム:NaOH、1mol/L水酸化カリウム:KOH)が用いられ、塩基性医薬品を滴定する場合には、標準液として強酸(1mol/L塩酸:HCl、0.5mol/L硫酸:H2SO4)が用いられる。

<標準液の濃度のズレについて>
 調製された標準液は、規定された濃度より「ズレる」ことがあり、そのズレを補正する値として、ファクターfを用いる。日本薬局方においては、fが「0.970〜1.030」に範囲にあるように調製すると定められている。

<標定、ファクターの計算について>
例)炭酸ナトリウム0.9950 gを量り、0.5 mol/L硫酸の標定を行なったところ、18.35 mLを消費した。この0.5 mol/L硫酸のファクターfを求めよ。ただし、炭酸ナトリウムの分子量を105.99とする。

①:炭酸ナトリウム(Na2CO3)と硫酸(H2SO4)の反応について確認する。
Na2CO3 + H2SO4 → Na2SO4 + H2CO3
上記の反応より、炭酸ナトリウムと硫酸は1:1で反応する。

②:0.5 mol/L硫酸18.35mL中の硫酸の物質量より、炭酸の物質量を求める。
硫酸の物質量:0.5 mol/L×18.35/1000=9.175 mmol
硫酸と炭酸ナトリウムは1:1で反応することから
炭酸ナトリウムの物質量:9.175 mmol

③:炭酸ナトリウムの物質量より、炭酸ナトリウムの質量を求める。
炭酸ナトリウムの質量=9.175 mmol×105.99 g/mol=972.5 mg=0.9725 g

④:ファクターfの計算
「理論値(秤取量)=ファクターf×標定により求まった量」が成立することから、ファクターfは以下のように求められる。
f=理論値(秤取量)÷標定により求まった量=0.9950÷0.9725=1.023

<標準試薬について>
標定する際には、標準液に対応した標準試薬が用いられる。
塩酸、硫酸を標定する際には、標準試薬として「炭酸ナトリウム」が用いられ、水酸化ナトリウムを標定する際には、標準試薬として「アミド硫酸」が用いられる。

4) 対応量の求め方

対応量とは、「標準液1 mLに対する目的物質の質量(mg)」のことであり、目的物質の含量を計算するために必要な値である。対応量については、滴定法に関わらず、下記の方法により求めることができる。

①:目的成分と標準液がどのように反応するか確認する。
②:目的成分1molに対して、反応する標準液のmol数を求める(この数値を「対応数」という)。
③:下記の式より標準液1mLと反応する目的成分の物質量(mmol)を求める。

④:対応量(mg)を求める。
対応量(mg)=③で求めた目的成分の物質量×目的成分の分子量

5) 含量、含量%の求め方

 含量%は以下の式より求めることできる。

含量の求め方が直接滴定と逆滴定では異なる。

<直接滴定の場合>
 直接滴定では、分析対象物質を溶解した溶液に標準液を滴下し、その滴定量から含量を求めるため、下記の式により含量を求めることができる。

含量=対応量×標準液の消費量×ファクター

<逆滴定の場合>
 逆滴定では、本試験と空試験における逆滴定用標準液の消費量の差より含量を求める。
本試験では、分析対象物質と一定過量の標準液をあらかじめ反応させておき、余った標準液を逆滴定用の標準液で滴定する。空試験では、分析対象物を含有していない状態で、一定過量の標準液を逆滴定用の標準液で滴定する。

例えば、本試験における逆滴定用標準液の消費量が3.7mL、 空試験における逆滴定用標準液の消費量が10mLとすると、分析対象物により消費された標準液は10-3.7=6.3mLとなる。

含量=対応量×(空試験の消費量-本試験の消費量)×ファクター

6) 中和滴定による医薬品の定量

<例:炭酸水素ナトリウムの定量>
本品約2 gを精密に量り、水25 mLに溶かし、0.5 mol/L硫酸を滴加し、液の青色が黄緑色に変わったとき、注意して煮沸し、冷後、帯緑黄色を呈するまで滴定する(指示薬:ブロモクレゾールグリン試液2滴) NaHCO3の分子量:84.01とする。

0.5 mol/L硫酸1 mL=84.01 mg NaHCO3

・対応量の算出について
対応量とは、標準液1 mLに対応する目的成分の質量(mg)のことであり、以下の手順で求めることができる。

①:炭酸水素ナトリウムと硫酸の反応について確認する。
2NaHCO3 + H2SO4 → Na2SO4 + 2CO2 + 2H2O

②:対応数について確認する。
炭酸水素ナトリウムと硫酸は2:1で反応することから、対応数(目的成分1molに対して、反応する標準液のmol数)は1/2となる。

③:標準液1mLに対応する目的成分の物質量を求める。
0.5 mol/L硫酸1 mLに対する炭酸水素ナトリウムの物質量=(0.5mol/L×1mL÷1/2)=1mmol

④:対応量を求める。
対応量=1mmoL×84.01 g/mol=84.01(mg)

<例:アスピリンの定量>
本品を乾燥し、その約1.5 gを精密に量り、0.5 mol/L水酸化ナトリウム液50 mLを正確に加え、二酸化炭素吸収管(ソーダ石灰)を付けた還流冷却器を用いて10分間穏やかに煮沸する。
冷後、直ちに過量の水酸化ナトリウムを0.25 mol/L硫酸で滴定する(指示薬:フェノールフタレイン試液 3滴)。同様の方法で空試験を行う。ただし、アスピリン(C9H8O4)の分子量を180.16とする。

0.5 mol/L水酸化ナトリウム液1 mL=45.04 mg C9H8O4

<参考:二酸化炭素吸収管(ソーダ石灰)を付けた還流冷却器が用いられる理由
煮沸中、溶媒が蒸発し、定量結果に誤差が生じる可能性があるため、還流冷却器を用いる。また、二酸化炭素吸収管(ソーダ石灰)については、空気中の二酸化炭素の流入を極力さけるために装着されている。

・対応量の算出について

アスピリンには、カルボン酸1個とエステルが1個含まれるため、対応数は「2」となる。対応数「2」であることから、0.5 mol/L水酸化ナトリウム液1 mLに対するアスピリンの物質量=(0.5mol/L×1mL÷2)=0.25mmoLとなり、対応量=0.25mmol×180.16g/mol=45.04 mgとなる。

2 非水溶液中における非水滴定

 強酸性医薬品や強塩基医薬品は、水溶液中で起こる酸塩基反応により滴定することができるが、弱酸性医薬品や弱塩基性医薬品は、水溶液中でほとんど解離しないため、水溶液中で起こる酸塩基反応により滴定することが困難である。

そこで、弱酸性医薬品や弱塩基性医薬品は、非水性溶媒中で起こる酸塩基反応により滴定することができる。このように非水性溶媒中で起こる酸塩基反応により滴定する方法を「非水滴定」という。

1) 溶媒の種類

 非水滴定では、水以外の溶媒が用いられる。非水滴定で用いられる溶媒には、プロトン性溶媒(酸性溶媒、塩基性溶媒、両性溶媒)と半プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒がある。

①:プロトン性溶媒
酸性溶媒:酢酸、ギ酸
塩基性溶媒:液体アンモニア、ブチルアミン
両性溶媒:メタノール、エタノール

②:半プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒
半プロトン性溶媒:N,N−ジホルムアミド、無水酢酸
非プロトン性溶媒:ベンゼン、クロロホルム

 

2) 非水滴定における滴定終点の検出

(1)指示薬法
非水滴定による指示薬法では、pHにより色調が変化する指示薬を用いて、滴定終点を検出する。非水滴定における指示薬法では、「メチルロザニリン塩化物(クリスタルバイオレット)」や「p–ナフトールベンゼイン」が用いられている。

(2)電位差滴定法
非水滴定による電位差滴定法には、指示電極としてガラス電極、参照電極として銀−塩化銀電極が用いられる。電位差滴定法は、指示薬法で色調の変化が明確に現れない場合によく用いられる。

3) 非水滴定で用いられる標準液

非水滴定において弱酸性医薬品を滴定する場合には、標準液として「ナトリウムメトキシド」「テトラメチルアンモニウムヒドロキシド液」が用いられ、弱塩基性医薬品を滴定する場合には、「過塩素酸」が用いられる。

<標準試薬について>
過塩素酸を標定する際には、標準試薬として「フタル酸水素カリウム」が用いられ、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド液を標定する際には、標準試薬として「安息香酸」が用いられる。

4) 非水滴定による医薬品の定量

<例:プロカインアミド塩酸塩の定量>

本品を乾燥し、その約0.5 gを精密に量り、無水酢酸 /酢酸(100)混液(7:3) 50mLに溶かし、0.1 mol/L過塩素酸で滴定する(電位差滴定法)。同様の方法で空試験を行い、補正する。

0.1 mol/L過塩素酸1mL=27.18mg C13H21N3O・HCl

・無水酢酸とプロカインアミドの反応
無水酢酸中では、第一級アミンと第二級アミンは容易にアセチル化される。このことから、無水酢酸中では、プロカインアミドの第一級アミン基は、アセチル化されその塩基性は消失する。そのため、無水酢酸中では、プロカインアミドは一酸性塩基として存在する。

・対応量の算出について
①:無水酢酸/酢酸混合液中におけるプロカインアミド塩酸塩と過塩素酸の反応について確認する。無水酢酸中では、プロカインアミドは1価の塩基として存在しているため、過塩素酸と1:1で反応する。

②:対応数について確認する。
プロカインアミドと過塩素酸は1:1で反応することから、対応数(目的成分1molに対して、反応する標準液のmol数)は1となる。

③:対応量を求める。
0.1 mol/L過塩素酸1mLに対するプロカインアミド塩酸塩の物質量は、「0.1 mol/L×1mL÷1=0.1mmol」であることから、対応量は「0.1mmol×271.79g/mol=27.18mg」となる。

<例:ジブカイン塩酸塩の定量>

本品を乾燥し、その約0.3 gを精密に量り、無水酢酸/酢酸(100)混液(7:3) 50 mLに溶かし、0.1 mol/L過塩素酸で滴定する(電位差滴定法)。同様の方法で空試験を行い、補正する。

0.1 mol/L過塩素酸1 mL=19.00 mg C20H29N3O2・HCl

・対応量の算出について
①:ジブカイン塩酸塩と過塩素酸の反応について確認する。
ジブカイン塩酸塩の構造中に含まれる芳香環の窒素と3級アミンの窒素には、ローンペアが存在するため、これらはプロトンを受け取ることができる。そのため、ジブカイン塩酸塩は二酸性塩基として存在する。ジブカイン塩酸塩は二酸性塩基であることから、ジブカイン塩酸塩と過塩素酸は1:2で反応する。

②:対応数について確認する。
ジブカイン塩酸塩と過塩素酸は1:2で反応することから、対応数(目的成分1molに対して、反応する標準液のmol数)は2となる。

③:対応量を計算する。
0.1 mol/L過塩素酸1mLに対するジブカイン塩酸塩の物質量は、「0.1 mol/L×1mL÷2=0.05mmol」であることから、対応量は「0.05mmol×379.92g/mol=19.00mg」となる。

<例:オキシコドン塩酸塩水和物の定量>

本品約0.5 gを精密に量り,無水酢酸/酢酸(100)混液 (7:3) 50 mLに溶かし、0.1 mol/L過塩素酸で滴定する(電位差滴定法)。同様の方法で空試験を行い、補正する。

0.1 mol/L過塩素酸1 mL=35.18 mg C18H21NO4・HCl

・対応量の算出について
①:オキシコドン塩酸塩と過塩素酸の反応について確認する。
オキシコドン塩酸塩の構造中に3級アミンの窒素には、ローンペアが存在するため、プロトンを1つ受け取ることができる。そのため、オキシコドン塩酸塩は一酸性塩基として存在する。オキシコドン塩酸塩は一酸性塩基であることから、オキシコドン塩酸塩と過塩素酸は1:1で反応する。

②:対応数について確認する。
オキシコドン塩酸塩と過塩素酸は1:1で反応することから、対応数(目的成分1molに対して、反応する標準液のmol数)は1となる。

③:対応量を計算する。
0.1 mol/L過塩素酸1mLに対するオキシコドン塩酸塩の物質量は、「0.1 mol/L×1mL÷1=0.1mmol」であることから、対応量は「0.1mmol×(405.87g/mol-(18.02×3)g/mol)=35.18 mg」となる。
(注意:非水滴定における水和物の定量においては、対応量を求める際、水和物の分子量より水の分子量を差し引き、医薬品の分子量を求める必要がある。)

◇関連問題◇
第98回問203、第99回問96

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