ペプシノーゲン(Pepsinogen)は、胃腺の主細胞から分泌される不活性な前駆体タンパク質で、消化酵素であるペプシンの前段階の形態である。ペプシノーゲンは胃内で活性化されてペプシンとなり、タンパク質を分解する役割を果たす。
1. 基本情報
- 分類: タンパク質分解酵素の前駆体(不活性型酵素)
- 分泌部位: 胃の主細胞(胃底腺および幽門腺に存在)
- 活性化条件: 胃内の酸性環境(pHが2以下)
2. ペプシノーゲンの機能と活性化プロセス
2.1 不活性の形で分泌
- 胃腺の主細胞からペプシノーゲンとして分泌されます。この不活性な形態は、胃の自己消化(胃壁の損傷)を防ぐ役割を果たす。
2.2 胃酸による活性化
- 胃の壁細胞から分泌される塩酸(胃酸)により、ペプシノーゲンは活性型であるペプシンに変換される。ペプシン自身も他のペプシノーゲン分子を活性化する(自己触媒的活性化)ことができる。
2.3 タンパク質分解の開始
- 活性化されたペプシンは、食物中のタンパク質をポリペプチドやオリゴペプチドに分解する。これにより、タンパク質はさらに小さなアミノ酸やペプチドに分解され、腸で吸収されやすくなる。
3. ペプシノーゲン分泌の調節
ペプシノーゲンの分泌は、食物の摂取や神経系・ホルモンの刺激により調節される。
3.1 分泌を促進する因子
- 迷走神経刺激: 食物摂取に伴う副交感神経の活動により分泌が促進される。
- ガストリン: 胃のG細胞から分泌されるホルモンで、ペプシノーゲンの分泌を間接的に促進する。
- 酸性環境: 胃酸分泌が活発になることで、ペプシノーゲンの分泌も増加する。
3.2 分泌を抑制する因子
- ソマトスタチン: 膵臓のδ細胞から分泌され、ペプシノーゲン分泌を抑制する。
4. ペプシノーゲンの異常と疾患
4.1 萎縮性胃炎
- 胃粘膜が萎縮すると主細胞の数が減少し、ペプシノーゲン分泌が低下する。
4.2 胃がん
- ペプシノーゲン分泌の低下は胃がんのリスクを示す可能性があり、血清ペプシノーゲン検査(ペプシノーゲン法)は胃がんリスク評価に使用される。
4.3 消化不良
- ペプシノーゲンやペプシンの不足は、タンパク質の消化不良を引き起こし、栄養吸収の障害をもたらす可能性がある。
5. 医療における利用
5.1 血清ペプシノーゲン検査
- 血液中のペプシノーゲン濃度を測定することで、胃粘膜の萎縮の程度や胃がんのリスクを評価する。
5.2 酵素補充療法
- 消化不良の患者に対して、外因的にペプシンや他の消化酵素を補充する治療が行われることがある。
コメント