薬剤師国家試験出題項目

クロマトグラフィーの分離機構

1 クロマトグラフィーの原理

 クロマトグラフィーとは、互いに混じり合わない固定相と移動相の間における物質の親和性の差(相互作用の差)を利用して試料混合物の分離を行う方法である。

例えば、無極性の固定相に接して移動相を流しているところに試料混合物(無極性の成分Xおよび極性の成分Y)を注入し、一定流速で移動相を流し続けた場合、無極性の成分Xは固定相に親和性を示すため、保持時間(カラムに試料が導入されてから溶出されるまでの時間)が長くなるが、極性の成分Yは固定相に親和性をほとんど示さないため、保持時間は短くなる。この保持時間の差により、成分Xと成分Yの分離が可能となる。
クロマトグラフィーでは、固定相との親和性の低いものから先に溶離する特徴を有しており、この特徴を生かして物質の分離を可能にしている。
クロマトグラフィーを行うと、その結果として、横軸に試料注入後の経過時間、縦軸に溶離してくる濃度を表したクロマトグラフが得られる。

2 クロマトグラフィーの種類

 クロマトグラフィーは、移動相に用いる物質の状態によって3つに大別される。

移動相が液体:液体クロマログラフィー
移動相が気体:ガスクロマログラフィー
移動相が超臨界流体:超臨界流体クロマトグラフィー

<参考:超臨界流体について>
超臨界流体とは、高温、高圧における物質の状態のことであり、液体と気体の両方の性質を有する。

3 クロマトグラフィーにおける分離機構

 クロマトグラフィーの分離機構は、物質と固定相との間の相互作用の程度の差に基づいており、これを分離モードという。分離モードには、「吸着」「分配」「イオン交換」「分子ふるい」「アフィニティー」がある。

1)吸着モード

 試料に含まれる成分と固定相の表面分子との可逆的な物理吸着を利用して物質を分離する方法を吸着クロマトグラフィーという。吸着クロマトグラフィーでは、一般に、極性の高い固定相と極性の低い移動相の組合がよく用いられる。
吸着クロマトグラフィーで用いられる固定相には、シリカゲル、アルミナ、ポリスチレンゲルが用いられる。

・シリカゲルについて
シリカゲルは下記の構造をしており、親水基を有するため、極性分子と相互作用を示す。

・極性の高い固定相を用いて物質を分離した場合について
極性の高い固定相を用いた場合、極性の高い物質は固定相に吸着しやすいが、極性の低い物質は固定相に吸着しにくい。このことから、極性の高い固定相を用いた場合、極性の低い物質から先に溶離し、極性の高い物質は、後から溶離する。

2)分配モード

 互いに混じり合わない2種類の溶媒に溶質を加えると、極性の高い物質は極性溶媒(水、アルコールなど)によく溶け、極性の低い物質は極性の低い溶媒(ベンゼンやn−ヘキサンなど)によく溶ける。このような分配の程度の差を利用するクロマトグラフィーを分配クロマトグラフィーという。

・順相クロマトグラフィーと逆相クロマトグラフィーについて
分配クロマトグラフィーについては、固定相と移動相の組合せにより順相クロマトグラフィーと逆相クロマトグラフィーに分類される。

逆相クロマトグラフィーでは、固定相としてオクタデシルシリル(ODS)化シリカゲルが汎用されている。

・オクタデシルシリル(ODS)化シリカゲル
オクタデシルシリル(ODS)化シリカゲルは、シリカゲルの水酸基にアルキル鎖を付加することで極性を低下させている(脂溶性にしている)。

・ODSを固定相に用いて物質を分離した場合について
ODS(脂溶性)を固定相に用いた場合、極性の低い物質は固定相に分配しやすいが、極性の高い物質は固定相に分配しにくい。このことから、ODS(脂溶性)を固定相に用いた場合、極性の高い物質から先に溶離し、極性の低い物質は、後から溶離する。

3)イオン交換モード

 イオン交換とは、ある物質に結合しているイオンが他のイオンと可逆的に交換される現象のことであり、陽イオン交換といえば、陽イオンの間における交換、陰イオン交換といえば、陰イオンの間における交換のことを表している。このイオン交換の原理を利用したのが、イオン交換クロマトグラフィーである。
イオン交換クロマトグラフィーでは、イオン交換体として合成有機高分子にイオン交換基を導入したイオン交換樹脂が用いられている。

(1)陽イオン交換クロマトグラフィーを用いたアミノ酸の分離
 陽イオン交換クロマトグラフィーによるアミノ酸の分離を理解するためには、アミノ酸の性質を把握する必要がある。アミノ酸は両性化合物であり、等電点(pI)の違いにより酸性アミノ酸、中性アミノ酸、塩基性アミン酸に分類される。

アミノ酸は両性化合物であることから、pHにより帯電の度合いが異なる。

上記の反応式より、等電点では、アミノ酸は電荷が±0となり、分子のような性質を示すが、等電点より酸性側(pH<pI)では、プラスに帯電し陽イオンとなり、アルカリ性側(pI<pH)では、マイナスに帯電し陰イオンとなる。

陽イオン交換クロマトグラフィーのよるアミノ酸の分離の手順を以下に示す。
①:pHが等電点よりも低い溶媒にアミノ酸を溶解する。この状態では、アミノ酸はすべてプラスに帯電している。
②:アミノ酸がすべてプラスに帯電している状態のものを陽イオン交換体を含むカラムに流し込む。陽イオン交換体にプラスに帯電したアミノ酸が結合する。
③:その後、移動相のpHを上昇させていくと、それぞれのアミノ酸の等電点とpHが等しくなる。それにより、アミノ酸の電荷が±0となり、陽イオン交換体と結合できなくなる。陽イオン交換体と結合できなくなったアミノ酸がカラムより溶離することから、アミノ酸の分離が可能となる。陽イオン交換クロマトグラフィーを用いたアミノ酸の分離では、等電点の低いものから溶離する。

4)サイズ排除(分子ふるい)モード

 立体的な網目構造を有する固定相を用いると、小さな分子は固定相の内部まで侵入できるため保持時間が長くなるが、大きな分子は固定相の内部まで侵入できないため、保持時間は短くなる。

このような分子サイズによる排除効果(分子ふるい効果)を利用したクロマトグラフィーをサイズ排除クロマトグラフィー(分子ふるいクロマトグラフィー)という。

5)アフィニティーモード

 生体高分子の間には親和性(バイオアフィニティー)を示すもの(抗原と抗体、酵素と基質、ホルモンと受容体など)があり、それらを利用したクロマトグラフィーをアフィニティークロマトグラフィーという。

親和性を示す物質(ピンク色の物質)は、固定相に保持されるが、水色、紫色の物質は固定相には保持されない。このことを利用して、生物学的親和性を示す物質を他の物質と分離することができる。

4 分離に関するパラメーター

 クロマトグラフを読み取るにあたり、多くのパラメーターについて把握しておく必要がある。

1) 保持時間(tR

 試料が注入されてから目的成分の検出信号のピークが現れるまでの時間を保持時間といい、分析条件が同一であれば、成分に固有の値となる。

上記の図は、成分1と成分2を分離した際のクロマトグラフを示している。tR1は成分1の保持時間を示しており、tR2は成分2の保持時間を示している。なお、本クロマトグラフにおいてhはピークの高さを示しており、Wはピークの幅を示している。

2)保持比、質量分布比(k)

 保持比、質量分布比(k)とは、移動相に存在する成分の量に対する固定相に存在する成分の量のことであり、下記の式で表される。

kはカラムの長さを変化させても変化しないが、温度などの分離条件を変化させると変化する。

3)分離係数(α)

 分離係数(α)は、クロマトグラム上の分離されたピーク相互の保持時間の関係を示しており、下記の式で表される。

二つの成分の保持時間の差が大きいほど、分離係数(α)は大きくなり、二つの成分の保持時間が同じ場合には、分離係数(α)=1となる。

4)分離度(Rs)

 分離度(Rs)は、クロマトグラム上の分離されたピーク相互の保持時間とピーク幅の関係を示しており、下記の式で表される。

・分離係数(α)、分離度(Rs)について
保持時間の差のみが反映される分離係数(α)では、ピーク幅を考慮していないため、ピークの重なりの度合いを正確に知ることができないが、分離度(Rs)では、保持時間に加え、ピーク幅も考慮しているため、ピークの重なりの度合いも正確に判断することができる。日本薬局方において、分離度が1.5以上のとき、二つのピークは完全に分離しているとしている。

5)シンメトリー係数(S)

 シンメトリー係数(S)は、クロマトグラム上のピークの対称性を表す指標であり、以下の式で表される。

W0.05h:ピークの基線(ベースライン)からピーク高さの1/20の高さのおけるピーク幅、f:W0.05hをピーク頂点から記録紙の横軸へ下ろした垂線で分割したときのピークの立ち上がり側の距離

①:理想的なピーク(シンメトリー係数S=1の場合)

2f=W0.05hでは、理想的なピーク(シンメトリー係数S=1)となり、左右対称のピークとなる。

②:リーディング(シンメトリー係数S<1の場合)

S<1(2f>W0.05h)では、ピーク立ち上がり側の距離が長い。このようにピーク立ち上がり側の距離が長くなる現象をリーディングという。

③:テーリング(シンメトリー係数S>1の場合)

S>1(2f<W0.05h)では、ピーク立ち上がり側の距離が短い。このようにピーク立ち上がり側の距離が短くなる現象をテーリングという。

6)理論段数Nと理論段高さH

クロマトグラフ上でピークが鋭く現れるほど、多くの成分を分離することが可能である。このことから、クロマトグラム上のピークの広がりの度合いは、カラムの分離性能の指標となる。理論段数(N)は、カラム内での成分のバンドの広がりを表す指標であり、下記の式で表される。

理論段数が大きいカラムほど分離効率が高い。ただ、理論段数はカラムの長さに比例するため、長さの異なるカラムを理論段数のみを用いて比較することは適切であるとはいえない。そこで、理論段数あたりのカラムの長さ(理論段高さ)を用いて、カラムの分離効率を比較することがある。
理論段高さは下記の式で表され、この値が小さいほど、カラムの分離効率が高い。

関連問題
第84回問27、第86回問30、87回問28、第93回問26、第96回問23、第100回問115、第103回問99

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