クエン酸(Citric Acid)は、自然界に広く存在する有機酸で、主に柑橘類などの果物に含まれる。生体内では、エネルギー代謝の中心的な役割を果たす「クエン酸回路(TCA回路)」の中間体として知られる。
1. 基本情報
- 化学式: C₆H₈O₇
- 構造式: HOOC–CH₂–C(OH)(COOH)–CH₂–COOH
- 3つのカルボキシル基(COOH)と1つのヒドロキシル基(OH)を持つトリカルボン酸。
- 性質:
- 無色の結晶または白色の粉末。
- 水によく溶け、酸味が強い。
2. 生体内での役割
クエン酸は、エネルギー代謝において極めて重要な分子であり、ミトコンドリア内で行われる「クエン酸回路(TCA回路)」の最初の中間体として機能する。
2.1 クエン酸回路の役割
- クエン酸回路は、糖質、脂質、タンパク質の代謝を通じて生成されるアセチルCoAが二酸化炭素と水に分解される過程で、ATPやNADHを産生する主要な代謝経路である。
- クエン酸は、アセチルCoAとオキサロ酢酸が縮合することで生成されます:
アセチルCoA+オキサロ酢酸→クエン酸
2.2 物質代謝の中間体
- エネルギー産生:
- クエン酸はクエン酸回路を通じて、ATPや還元型補酵素(NADH、FADH₂)を生成する。
- 脂肪酸合成:
- ミトコンドリアから細胞質へ輸送されたクエン酸は、アセチルCoAとオキサロ酢酸に分解され、脂肪酸やコレステロールの合成に利用される。
- 糖新生:
- クエン酸から生成される中間体が糖新生経路に供給される。
3. 食品や健康分野での利用
- 食品添加物:
- 酸味料、防腐剤、pH調整剤として広く使用されている。
- 主に清涼飲料水、ジャム、キャンディなどで利用される。
- 健康促進:
- クエン酸の摂取は、疲労回復や代謝促進に役立つ。
- 筋肉内の乳酸の分解を助けることで、運動後の回復を促進する。
4. 臨床的意義
- 腎結石予防:
- クエン酸はカルシウムと結合し、尿路での結石形成を抑制する。クエン酸カリウムとして処方されることがある。
- 代謝性アシドーシスの治療:
- クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム)は、体内のpHを調整するために使用される。
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