β酸化(β-oxidation)は、脂肪酸を分解してエネルギーを得る代謝経路の一つで、主にミトコンドリア内で進行する。この過程で脂肪酸分子が繰り返し酸化され、アセチルCoA(アセチル補酵素A)を生成する。生成されたアセチルCoAは、クエン酸回路や電子伝達系で利用され、ATPという形でエネルギーが産生される。β酸化は脂肪酸の炭素鎖が2炭素単位ずつ短くなる連続的なサイクルで構成される。
β酸化の過程
β酸化は以下の4つの反応段階を繰り返して進行します:
- 脱水素反応(酸化)
- 酵素「アシルCoAデヒドロゲナーゼ」によって、脂肪酸アシルCoAのβ炭素(2番目の炭素)とα炭素(1番目の炭素)の間に二重結合が生成される。
- この過程でFADが還元されてFADH₂が生成される。
- 水和反応
- 酵素「エノイルCoAヒドラターゼ」によって、水分子が付加され、β炭素にヒドロキシ基(-OH)が導入される。
- 再酸化反応
- 酵素「3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ」により、β炭素のヒドロキシ基が酸化されてケト基(=O)になる。
- この反応でNAD+が還元され、NADHが生成される。
- 切断反応
- 酵素「β-ケトアシルCoAチオラーゼ」によって、アセチルCoAが切り出され、炭素鎖が2炭素短くなった脂肪酸アシルCoAが残る。
この一連の反応が繰り返されることで、脂肪酸は完全に分解される。
生成物
- アセチルCoA
- 各サイクルで2炭素単位のアセチルCoAが生成される。これがクエン酸回路に入り、さらにATPを生成する。
- FADH₂
- 電子伝達系で利用され、約1.5分子のATPを生成する。
- NADH
- 電子伝達系で利用され、約2.5分子のATPを生成する。
β酸化の場所
- ミトコンドリア内膜
主に長鎖脂肪酸が分解される。
β酸化の重要性
- エネルギー供給
- 脂肪酸は高エネルギー密度の分子であり、β酸化によって効率的にATPが生成される。
- 空腹時や運動時など、糖が不足している状況で特に重要である。
- 脂肪代謝の調節
- β酸化は脂肪酸の過剰蓄積を防ぎ、エネルギーバランスの調整に貢献する。
- ケトン体生成
- アセチルCoAが過剰になると、肝臓でケトン体が合成され、エネルギー源として利用される(特に糖代謝が低下している状況で顕著)。
異常と疾患
β酸化の異常は、エネルギー供給の不足や脂肪酸の蓄積を引き起こし、以下のような疾患に関連する:
- カルニチン欠乏症
脂肪酸をミトコンドリア内に輸送できず、β酸化が停止する。 - 酵素欠損症
アシルCoAデヒドロゲナーゼなどの欠損により、脂肪酸の分解が障害される。 - 脂肪肝
脂肪酸の分解異常が原因で脂肪が蓄積することがある。
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